テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1299話】「恩送り」 2024(令和6)年1月21日~31日

住職が語る法話を聴くことができます


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1299話です。

 「恩返し」の恩という字は、原因の因に心と書きます。因は「くにがまえ」が布団で、中の「大」という字は人を表わしています。大きな布団を敷いて、大の字に乗ることを示しています。よって恩という字は恵みを与えて、ありがたい印象を心にしるしたということです。

 能登半島地震の被災者は、寒さの中、避難所で不安と不自由な暮らしを余儀なくされています。せめてふかふかの布団を敷いて、大の字に寝ることができたらと思わずにはいられません。そんなことができるお手伝いにということで、全国からボランティアが集まっています。特に、神戸や宮城県から派遣されたボランティアは、自分たちが震災で辛い思いをしたときに、全国の方から支援していただいたので、その恩返しの気持ちも込めてと能登に向かっています。

 そして阪神・淡路大震災発生から29年となった1月17日、神戸市中央区の公園には、約7千本の竹燈籠などに灯がともされ、「1995 ともに 1.17」の文字が作られました。発生の日付に加えて「ともに」いう文字は、一人ではない、ともに助け合おうという能登のみなさんへのメッセージでもありました。

 神戸も宮城も震災からの復興は、険しい道のりでした。しかし5年10年という歳月をかけて辛さに耐え、悲しみを乗り越えてきました。それもこれも自分たちだけの力では叶わないことでした。見ず知らずの方も含めて、実に多くの方々が手を差し伸べ、励ましの声をかけてくださいました。そのおかげでここまでたどり着くことができたのです。まさに「ともに」の有り難さです。

 たとえば、徳本寺もその末寺の徳泉寺も海のそばに墓地がありました。大津波で墓石がなぎ倒され、骨堂が抉られ、遺骨は流出して、墓地全体が砂に埋もれてしまいました。その砂の掻き出しに汗を流してくださったのは、神戸の方々でした。私も神戸に震災の炊き出しで伺ったことはあるものの、当時からすれば15・6年も前のことです。直接お会いしている人などはほとんどいません。ただ、被災した人はその辛さや支援の有り難さが身に染みています。だから、よそで起きた災害でも、我がこととして捉えることができるのです。

 世間には「恩送り」という言葉があるそうです。人から受けた恩に報いる「恩返し」よりは、少し広い意味があるようです。作家の井上ひさしさんは次のように書いています。「誰かから受けた恩を、直接その人に返すのではなく、別の人に送る。その送られた人がさらに別の人に渡す。そうして、『恩』が世の中をぐるぐる回っていく」

 神戸から宮城へ、そして能登へと、被災者のみなさんが暖かい布団の上で大の字に寝そべられる日が、1日も早く訪れますように、みなさんのできる範囲で恩送りをしましょう。さあ「スイッチON(恩)!」

 それでは又、2月1日よりお耳にかかりましょう。

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