テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第771話】「でんぐり返っても」 2009(平成21)年5月21日-31日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第771話です。
 「森光子といえばでんぐり返し」「放浪記といえばでんぐり返し」といわれるほど、「でんぐり返し」は森光子さん主演の舞台「放浪記」での、見せ場になっていました。森さんが扮する作家である林芙美子が、自分の作品が初めて雑誌に掲載された喜びをでんぐり返しで演じていたのです。劇中一番拍手の起こるところです。しかし、昨年の公演からそのシーンは止めて、代わりに万歳三唱をするようになりました。森さんの年齢的なことに配慮したためです。
 それもそのはず、森さんは今年5月9日に89歳を迎えています。そしてその日に、「放浪記」上演2000回を達成しました。初演は昭和36年で、41歳の時です。以来50年近くも演じ続けてきて、単独主演の上演記録を更新中です。その秘訣は何なのでしょう。
 森さんの日課はこうだそうです。スクワットといっても、軽めの屈伸運動ですが、これを毎朝75回夜75回の計150回行います。それから、毎日50-60グラムの肉と3個の卵を欠かさないそうです。何より、台本を必ず一から覚え直すという前向きの姿勢があります。自分の解釈に間違いがないか、もっとすてきな表現はないかと、探りながら日々精進しているというのです。2000回も演じていれば工夫などしなくとも、自分の日常生活の雰囲気で演技ができそうと凡人は思ってしまいます。
 私たちは自分の日常生活の中で、例えば毎日同じ仕事の繰り返しで、厭きて嫌になり、適当に流してしまうことがあります。しかし、森さんは2000回の「放浪記」に同じものがないと言います。大筋のセリフは変わらないでしょうが、時々代わる共演者との呼吸の合わせ方や体調によっても、舞台の雰囲気が変わることはあるでしょう。何より、観ているお客さんが毎回違います。初めて観て、もう二度と観ることができない人もいるでしょう。何度か足を運んでくる人は、「今日の森さんの演技」を観たいという期待があるはずです。まさに「一期一会(いちごいちえ)」の世界です。
 初演の第一回目の「放浪記」もその時一回きりの「放浪記」であり、2000回目の「放浪記」も二度と繰り返すことが出来ない一回きりの「放浪記」です。私たちの人生があと何千日あるか誰にも分かりません。分かっていることは、どんなに「でんぐり返っても」今日という日を、もう一度やり直すことはできないということです。よって「放浪」している暇などありません。
それでは又、6月1日よりお耳にかかりましょう。031.JPGのサムネール画像

最近の法話

【1325話】
「はらこめしと仏飯」
2024(令和6)年10月11日~20日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1325話です。 わが山元町は小さな田舎町ですが、この時期、行列ができる店があります。「はらこめし」を提供している店です。はらこめしは、鮭の煮汁でご飯を炊き込み、その上に鮭の切り身とはらこをのせたものです。はらことは鮭の卵いわゆるイクラのことです。隣の亘理町荒浜が発祥の地ですが、亘理郡内に行き渡っていて、家庭ごとに自慢の味付けがあ... [続きを読む]

【1324話】
「少年の心
達磨の心」
2024(令和6)年10月1日~10日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1324話です。 心理学者の児玉光雄は、大リーグの大谷選手を「少年の心を持つスーパーアスリート」と表現しています。少年時代から野球を楽しむ心を忘れず、自発的に物事に取り込める姿勢が、想像を超えた活躍に繋がっているというのです。 大谷選手は50-50つまり、50本塁打50盗塁という夢のような記録を、軽々と超えてしまいました。アメリ... [続きを読む]

【1323話】
「土俵に彼岸を見た」
2024(令和6)年9月21日~30日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1323話です。 大相撲秋場所6日目結びの一番。大関豊昇龍が平幕王鵬にすくい投げで敗れました。余程悔しかったのでしょう。土俵を拳(こぶし)で突き、きちんと礼をすることなく、花道に向かったところ、審判長に呼び止められ、再び土俵に上がります。そこでも礼が合わず再びやり直しをさせられました。洒落ではあ... [続きを読む]