テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第799話】「みちしるべ」 2010(平成22)年3月1日-10日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第799話です。
kiku.JPG
 平成6年12月、当時11歳になる少年は、突然の事故で和尚さんであるお父さんを亡くしました。私もご縁があり、葬儀に参列致しました。彼の4人の子どもさんたちのお別れの言葉が忘れられません。お姉さんたちは立派にお別れを言いました。しかし、11歳の少年は悲しみを堪えきれず、涙ながらに「お父さんさようなら」と、やっと一言言っただけでした。
 少年はお父さんが亡くなる前に、年が明けたらお父さんの弟子になって、和尚さんになると約束していたのです。それが叶わなかった無念さと、お父さん亡き後、自分が後を継いでいかなければならないという健気な思いがあったのでしょう。
 あれから16年。その少年との思いがけない出会いがありました。少年は昨年から大本山總持寺で修行に励んでいたのです。そして本山で行われる布教弁論大会において、総裁賞という第一席に輝く成績を修めました。その論文が本山の月刊誌に写真入りで掲載され、誌面でではありますが成長した少年に再会したというわけです。
 その演題は「みちしるべ」というものです。道を示してくれるはずの父を亡くし、迷いながら学生時代を過ごしたと言います。それでも支えは、父に教わったバスケットボールで、本気で練習に励みました。様々な大会で結果も残し、個人としての評価もいただき、「自分は努力をし懸命に生きている」という実感を抱くようになりました。本山に行ってもそのようにできると思っていました。しかし、修行を始めて間もなく、1ヶ月の入院を余儀なくされました。
 幼い頃に父を亡くし、怪我や手術を繰り返し、なんという不幸な人生なんだと落ち込んでいる時、お見舞いに来て下さったある住職さんに言われました。「君は恵まれている。君の帰りを待っている人がいる。それ以上に大切なことがあるのかな?」。その言葉で自分の思いが一変しました。自分なりに必死に生きてきたつもりでいたが、家族や周りのお寺さんそして何よりバスケットの縁も作ってくれた亡き父にも、ずっと自分は支えられていたのだと気付いたのです。今もなお私を導いてくれている父のように、私もいつの日にか誰かの「みちしるべ」となるよう仏道を歩んでいきます、と結んでありました。
 16年前に流した少年の涙こそ、今日に至る「みちしるべ」だったのではないでしょうか。今涙は乾き、「お父さんさようなら」という言葉は、「お父さんありがとう」に変わっているような気がします。今年はそのお父さんの17回忌。よい供養になることでしょう。
それでは又、3月11日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【第1148話】
「空しく施す」
2019(令和元)年11月11日~20日

news image

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1148話です。 オウンゴールとは、サッカーで誤って、自分のチームのゴールにボールを入れて、相手の点数になることで、昔は自殺点とも言いました。 この度の萩生田光一文部科学大臣の「身の丈」発言は、まさにオウンゴールです。来年度からの大学入試共通テストでの英語民間試験の活用導入を見送ることになったからです。それは民間に丸投げして、英... [続きを読む]

【第1147話】
「ソプラノの声」
2019(令和元)年11月1日~10日

news image

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1147話です。 たとえば、誤ってグラスを落として割ったとします。驚いて大きな声を出すことでしょう。しかし、大きな声でグラスを割ることができるとしたら、もっと驚きです。ソプラノ歌手でその声をもって、グラスを割った人がいるそうです。想像を超えた神技のレベルでしょうか。 さて、先日行われた第... [続きを読む]

【第1146話】
「水の怖さ」
2019(令和元)年10月21日~31日

news image

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1146話です。 伊豆地方で住職をする私の先輩は、台風19号の天気予報を聴いて、寺の過去帳とおにぎり5個を須弥壇に供えたそうです。気象庁が「1200人以上犠牲者が出た狩野川台風に匹敵する」と報じたからです。狩野川台風は先輩が小学3年の昭和33年9月26~28日にかけて、伊豆半島をかすめて、東海・... [続きを読む]