テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1294話】「只管打坐」 2023(令和5)年12月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1294話です。

 ちょうど1年前の12月1日に、同じ郡内の常因寺の住職さんが、重篤な病気であると知らされました。翌日急ぎ寺に伺うと、何とか面会はできたものの、会話は叶いませんでした。そして次の日の3日に亡くなったのです。70歳でした。夏に研修会でご一緒したばかりで、日頃から親交があったので、信じられない思いでした。

 彼の住職の就任披露である晋山式は忘れられません。新しい住職が須弥壇上に登り、仏法を敷衍する意味で、多くの僧侶と大問答を繰り広げた時です。若い僧侶が「如何なるか仏法の大意?」と尋ねると、彼は「只管打坐」と答えました。次の者が「如何なるか須弥壇上の風光?」それに対しても「只管打坐」。その後も矢継ぎ早に問答をかけますが、すべて「只管打坐」という答えを貫き通したのです。

 禅問答は、時に分かりにくい問答にたとえられます。まさにこの時は、禅問答の極みと思った人もいたかもしれません。只管打坐とは、ただひたすらに坐禅をするということです。坐禅は曹洞宗の命脈です。そして彼の問答は、坐禅こそ命であり、大自然の営み、人間の一挙手一投足、すべてに通じるという信念があってのことだったのでしょう。

 私たちの日常は、「我他彼此」根性の塊のようなものです。つまり我と他と、彼と此れという対立や偏見に満ちた生き方をしています。坐禅は、比べたり偏った見方を取り払い、まっさらな心を養う修行です。そして、あるがままにすべてを受け入れることができるようになります。白い色はそのまま白い色に映り、何ら邪念が働く余地がありません。それが只管打坐の境地です。

 12月8日はお釈迦さまが、まさに只管打坐を極めた日で、成道会と言います。成道とはお悟りという道を成就したという意味です。お釈迦さまは、なぜ生きるのかと悩み、29歳の時出家して、難行苦行の修行に打ち込みます。6年間かけても何ら解決には至りませんでした。そこでお釈迦さまは、苦悩を脱するまではこの座を立たないという不退転の決意で、菩提樹の下で坐禅三昧に入ります。とうとう8日か目の朝、明けの明星をご覧になったとき、大いなる解脱を得ました。つまり、偏っている心、こだわっている心、囚われている心という煩悩と妄想から解き放たれたのです。

 さて、只管打坐に成りきった住職さんの本葬儀は、1年の準備期間を経て、先月末に行われました。その舞台となった本堂は、彼が生涯をかけて念願し、4年前に完成した只管打坐の殿堂ともいうべき、大伽藍です。私は奠茶師という脇導師の役をいただき、彼に次のような惜別の一句を送りました。「只管打坐 無言無説にして 誠を究める」。その時、偶然とはいえ、確かに一匹の白い蝶が本堂に入ってきて、悠々と舞い始めたのです。その姿はあたかも「私は只管打坐の境地で、何の憂いもなくこれからも飛び続けるよ」と、彼が言っているようでした。

 それでは又、12月11日よりお耳にかかりましょう。

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