テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第965話】「選びつづける」 2014(平成26)年10月11日-20日

住職が語る法話を聴くことができます

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 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第965話です。
 40代のその青年は、東日本大震災当時両親と3人で沿岸部に暮らしていました。自分は働きに出ていたので無事でしたが、両親は自宅にいて、犠牲になりました。家も流されてしまいました。自分だけは助かっても、その喪失感は如何ばかりだったでしょう。
 それでも両親の遺体の発見は早い方でした。世の中が大混乱状態になっている3月末、妹さん弟さんと力を合わせて、地元の火葬場では間に合わず、他の町の火葬場まで行って、火葬を済ますことができました。そして5月の初めには葬式も無事終えました。しかし、お墓も沿岸部にあったため、流されて納骨することはできません。しばらくお寺で両親の遺骨を預かることになりました。それからは、足しげくお寺に通って、両親に手を合わせていました。初盆・一周忌・3回忌という節目ごとの供養も欠かしませんでした。
 今年5月に流された沿岸部のお墓の移転造成が完了しました。ご自分の墓地の場所も決まり、いよいよ両親を納骨するために新たにお墓を建てるべく、熱心に墓石の検討を重ねていました。秋の彼岸を前にして立派なお墓が完成しました。弟さんが今後の納骨のことを相談しようと、部屋を訪ねたところ、青年は変わり果てた姿で横たわっていたのです。震災から3年半経った日です。
 弟さんは言います。「兄は震災で両親を亡くして、ほんとうに沈んでいました。でも、供養だけはしっかりしようと、これまでそのことにだけ心血を注いできたのです。その最終目標がお墓を建てることだったのかもしれません。お墓を建ててすべてやり遂げたという気持ちになり、生きていく気力をなくしたのでしょうか」
 まだ若い方です。供養ごとに慣れているはずがありません。非業の死を遂げた両親をきちんと供養したい一心で、迷いながらも一つひとつを判断しながら、やっとお墓を建てるところまでたどり着いたのです。そのお墓に真っ先に自分が入ることになるとは、周りにしてみれば、やるせなさが募るばかりです。
 「そして生きるとは 屈することなく 選びつづけること 死ぬことをも含めて」とは芥川賞作家の清岡卓行の言葉です。震災で両親も家も失うという絶望的な状況の中で、屈することなく今なすべきことを、選び続けて供養をしてきたのです。その果てに、四十半ばで死を選ばなければならなかったとは、無念の極みです。普通ならば死を選ぶ前に、もっと選ぶべきことがあったはずです。普通でない震災の痛手の大きさは、その選択肢を見えなくしてしまったのでしょうか。被災地の風景に復興の兆しが見えても、被災者の心の景色はあの時のままの人もいることを忘れてはなりません。
 ここでお知らせ致します。第8回テレホン法話ライブ「東日本大震災―転んで転じる―」を10月26日(日)午後2時より徳本寺で開催します。ゲストはクリスタルボール奏者の安達季久子さんです。入場は無料です。是非ご参加下さい。
 それでは又、10月21日よりお耳にかかりましょう。

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