テレホン法話
~3分間心のティータイム~

第754話「ゴミんなさい!」 (2008-12.01-12.10)

 その先生が、中学三年生のクラス担任になって教室に入ったとき、確かに「荒れているクラスだ」と感じました。教室内が雑然として、ゴミがあちらこちらに落ちています。悪循環で、平気でゴミを捨てる生徒が後を絶ちません。
 先生の持論として、「教室が汚いと、気持ちも荒(すさ)んでくる」というのがありました。しかし放課後、掃除の時間になっても、手足を動かすのは数人で、あとはただ窓際に立っているだけ。掃除をするように声をかけようものなら、逃げ出して行く始末です。
 ある時から先生は、放課後、帰りの時間に「三十秒以内に全員教室を出て行くように」と、生徒たちに声をかけます。そして、誰もいなくなった教室を、先生が一人で黙々と掃除をしました。机、椅子も寸分の狂いもない位に、ピシッと合わせて並べました。
 最初はすべてが徒労に終わっていました。翌日、半日も経たないうちに、机の並びは乱れ、ゴミも相変わらず投げ捨てられます。しかし、朝生徒が教室に入って来た瞬間だけでも、整然とした教室を見て、気持ち良くなってくれたらいいと思い、ひとり掃除を続けました。
 何日かすると、数人の生徒が掃除中に教室に入って来るようになりました。最初は取り留めもない話をするだけでしたが、段々掃除を手伝ってくれるようになったのです。時をみて、先生はクラス全員に向かってこう言いました。「みんな、一つだけ約束しようや。取りあえず、ゴミはゴミ箱に捨てよう」。そのあたりから、クラスの雰囲気が変わっていったと言います。
 また問題児の家庭訪問でも、生徒の部屋を見せてもらい、ある程度掃除が行き届いているようだと、程なく立ち直ることができるだろうと確信するそうです。逆に、部屋もやっぱり荒れている生徒の家には、何度か通って、掃除を手伝ってあげ、立ち直りの糸口をつかんだこともあるそうです。
 お釈迦さまの弟子の周利槃特(しゅりはんどく)は、物覚えが悪く、短いお経さえ、すぐに忘れてしまう方でした。お釈迦様は周利槃特に箒を与え、掃き掃除に専念するように諭されました。その結果、遂にお悟りを開かれたと伝えられています。
 
 掃除をすることにより、いらないものが取り除かれ、まわりが清められ、輝いてきます。その清々しい光景を見れば、誰でも心が洗われ、それまで見えなかったものが、見えるようになっても不思議ではありません。
 教室にゴミを捨てるような荒れた中学生でも、素直に反省することでしょう。「ゴミんなさい!」と。十二月は大掃除の時期。私たちもまでわれるような掃除に専心致しましょう。
それでは、又12/11よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【第1269話】
「博士の理想郷」
2023(令和5)年3月21日~31日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1269話です。 その老人の肩には無数の傷跡がありました。「どうしたの」と家の者が聞くと、「自分で作った赤痢ワクチンを注射して、反応や経過を観察した、いわば自分を材料にした人体実験だ」というのです。その老人こそ、赤痢菌発見者として世界的に著名な志賀潔博士です。 博士の生まれは仙台ですが、昭和20年に我が山元町磯浜に家族と共に移り... [続きを読む]

【第1268話】
「嵩上げ復興」
2023(令和5)年3月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1268話です。 東日本大震災翌日の朝早く、避難所になっている坂元中学校に行きました。そこは少し高台になっていて、町の海側の方が見渡せる位置にあります。何と松林もなければ、民家も一軒も残らず、どす黒い大地と化していました。道路も判別できず、線路も流されるというありさまです。ただ、坂元駅の高架橋だ... [続きを読む]

【第1267話】
「希望に勝る意志」
2023(令和5)年3月1日~10日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1267話です。 先日、東日本大震災に関して、地元テレビ局のアナウンサーから取材を受けました。終わってから逆取材をして、彼女に震災の時のことを聞いてみました。当時彼女は仙台市の中学3年生とのこと。震災の翌日に卒業式を控えていたのですが、当然行われませんでした。「私、中学を卒業していないんです」と言うのでした。 あの時中学生だった... [続きを読む]