テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1076話】「流されないぞ」 2017(平成29)年11月11日-20日

住職が語る法話を聴くことができます

1076.jpg お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1076話です。
 一年で一番雨が降って欲しくないと願っていた10月29日でしたが、終日雨でした。その日は徳本寺でテレホン法話ライブの日だったのです。台風の影響もあり最悪の天候です。しかし「最悪の日は最良の日よりも多くのものを教えてくれる」と言いますが、その通りでした。
 この雨の中、参加者は少ないだろうと弱気になっていました。開始前にあるスタッフが「参加者はこの日のためにみんなワクワクしているのです。雨なんて何のその!」と言って背中を押してくれました。幕を開けてみれば用意した120の席が足りないほどの盛況でした。このテレホン法話が30周年になった記念の、第11回目のテレホン法話ライブ。昨日今日始めたものではなく、長年続けていればこそ、雨にも負けない力が宿ることを実感しました。
 そしてまさに「まけないタオル」です。東日本大震災支援で始めた、短くて首にも頭にも巻けないけど、震災にも負けないというメッセージをこめたタオル。現在この活動は終えましたが、当日ゲストの歌手の高橋佳生さんが、「まけないタオル」の歌を歌ってくださいました。活動を始めた頃、佳生さんがテレビで紹介してくれた縁があったからです。歌い終わってから、残っていた5枚の「まけないタオル」を参加者にプレゼントすることになりました。
 そのプレゼントの条件として、佳生さんはお寺を意識してか、「今日が命日あるいは29日が月命日という家族がいらっしゃる方?」と呼び掛けました。ある女性の手が挙がりました。私がその席にタオルを持参すると、なんと私の友人の奥さんでした。「29日は彼の月命日です」と言うのです。友人である彼は、昨年12月29日に病気のため60半ばで旅立ちました。亡くなる数日前、弱った声で「さよなら」と言ったので、「誰に言ってるの」と問いかけると、「みんなに」にと答えたそうです。やさしさの塊のような彼にふさわしい最後の姿に思えました。
 実は彼は大震災で家を流され、やっと新居を構えたばかりで、まだ2年もそこに住まいせずに亡くなったのです。彼の大震災からの立ち直りは、以前このテレホン法話でも紹介しました。「もう流されないぞ」という強い気持ちを持ち続けていることに感動したからです。その立ち直りの話を、当日のテレホン法話ライブの最後にすることになっていました。個人的には弔辞をあげるような気持でした。奇しくも彼の月命日にそれが実現できました。
 雨にも負けずお出で下さった彼の奥さんはじめ、参加者のみなさまには、まるで彼の「流されないぞ」という気持ちが乗り移っているかのように、終始真剣に耳を傾けてくださいました。そしてこのテレホン法話は、電話には流れますが、大震災という困難には流されず継続できての30年です。お聴きいただいているみなさまに、改めて感謝申し上げます。
 ここでお知らせ致します。10年間のテレホン法話ライブを紙上再現した『月を流さず―和尚の語り草―』が出版されました。電話ではお伝え出来ない法話に因んだ写真も掲載された読みやすい本です。定価1500円。ご希望の方は徳本寺までお申し込みください。電話0223-38-0320です。ホームページからの場合はこちらをご覧ください。
 それでは又、11月21日よりお耳にかかりましょう。

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