テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1301話】「逃亡の果てに」 2024(令和6)年2月11日~20日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1301話です。

 子どもの頃かくれんぼで、すぐに見つからないよう工夫しました。かといって、いつまでも見つからないと、自分一人置いてきぼりになったのではと、不安になるものでした。

 この人は隠れていたと言えるのかどうか。ともかく見つからなかったのです。しかも49年間もです。1974、75年に起きた連続企業爆破事件の桐島聡容疑者です。東京などで9カ月間に12カ所のゼネコンなどに相次いで爆発物が仕掛けられました。死傷者も多数出て、世の中を震撼とさせました。これまで警視庁は過激派集団メンバーの9人を逮捕、2人は国際手配中です。桐島容疑者も当初から全国に指名手配されていました。その手配写真は、駅や郵便局でよく見かけました。

 1月25日神奈川県の病院に末期がんで入院していた男が、「自分は桐島聡だ」と名乗ったと言います。しかし、その4日後の29日に死亡しました。わずかの間の事情聴取やDNA鑑定で、本人と特定するに矛盾はないとの結論に至りました。

 事件後は「内田洋」の偽名を使い、川崎市内で日雇いの仕事や、藤沢市の土木会社に住み込みでの働きが、入院するまで約40年間続きました。他のメンバーとは接触せず、ずっとひとり暮らしでした。事件のことは後悔していたようで、「最期は『桐島聡』で死にたい」と話したそうです。すでに70歳にもなり、死を目前にして、本来の自分に戻りたかったのでしょうか。隠れて見つからない間は、怯えはあっても安らぎはないはずです。人を欺き自分を偽る生活から解放されて初めて、真の安らぎはあります。

 さて、お釈迦さまは今から2500年前の2月15日に亡くなられました。そしてお釈迦さまは臨終に際し最期の説法をなさいます。その中で次のようにお示しです。「瞋恚(しんい)の害は即ち、諸(もろもろ)の善法を破り、好名聞を壊(え)す。今世後世(こんせごせ)の人、見んことを喜(ねが)わず。当に知るべし、瞋心(しんじん)は猛火(みょうか)よりも甚だし」(怒りの心を起こせば、これまでの功徳や名声もすべて台無しで、今の人も後の人も相手にはしない。怒りの炎は燃え盛る炎よりも激しく、一切の善事を亡ぼしてしまう)

 50年前に怒り狂って、自分勝手な正義を振りかざして社会へ挑戦し、「隠れ」続けた男は、今世後世の人に相手にされず、一人置いてきぼりになってしまいました。隠すべきは、平気で世を欺く心でしょう。お釈迦さまは「お隠れ」になって尚、そのみ教えで人々を導いて下さいます。曰く「忍の徳たること、持戒苦行も及ぶこと能わざる所なり」忍耐は戒を守ったり苦行するよりも徳があるとのお諭しです。長い逃亡生活を送るほどの忍耐が、50年前にあったらと思わずにはいられません。

 ここでお知らせいたします。1月のカンボジアエコー募金は、1,084回×3円で3,252円でした。ありがとうございました。

 それでは又、2月21日よりお耳にかかりましょう。

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