テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1228話】「カンニングよりランニング」 2022(令和4)年2月1日~10日


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1228話です。

 そのテレホン法話は「神頼み」というタイトルでした。受験生が、どの程度「神頼み」するかという調査結果が元になっています。願を掛ける掛けないは、ほぼ拮抗していました。しかし、そんな結果を嘲笑うかのように、携帯電話を使ってカンニングをした予備校生を紹介しました。かなりの文字数の試験問題を携帯電話で打ち込んで、ネット掲示板に投稿し、解答を求めたのです。携帯電話を神のように信じ、神業の如く操っていたのかという結びで法話を締めました。

 それは平成23年3月11日の発表でした。その日の午後2時46分に東日本大震災が発生。ほどなく電気も電話も不通になりました。復旧したのは1週間後ですから、この法話はほとんど誰にも聴かれずに終わった幻のテレホン法話です。神頼みをしたくても、神も仏もないのかと思えるような大惨状です。テレホン法話など何の役に立つわけもなく、なくなってもよかったものです。同じように、携帯電話カンニングも、その時だけのような気がしていました。

 あれから11年、良くも悪くも人間の神業は、進歩しています。今年の大学入学共通テストで、「世界史B」の問題が試験中にネットに流出しました。19歳の女子大学生が警察に出頭し、関与を認めました。「別の大学に入り直そうとしたが、成績が伸び悩んでいた」と説明しています。予め家庭教師紹介サイトで接点があった大学生に、時間を指定して待機させ、隠し撮りした問題の画像を送り、解答を依頼したのです。

 その神業は、スマートフォンを上着の袖に隠して撮影したり、文字を打って送信したというものです。勿論、シャッター音が出ない工夫もしています。それほど準備と操作するエネルギーがあるなら、受験勉強に費やすべきでしょう。更にわからないのは、現在大学生でありながら、別の大学に入るために、カンニングに及んだことです。何のために大学に入ったのでしょう。カンニングの技を磨く学科があったのでしょうか。

 件の予備校生の受験が、東日本大震災の後だったら、携帯電話カンニングなどという姑息な手段は思い浮かばなかったでしょう。大震災という圧倒的な惨状を前にした時、人間の非力(ひりき)さを思い知らされました。復興にはカンニングなど通用しないのです。目の前の現実を直視して、今自分ができることをやるしかないのです。

 19歳の女子大学生にしても、コロナ禍でのリモートに慣れ過ぎて思いついた仕業だとしたら悲しいことです。画像だけでは判断できない生の現場があります。匂いや息遣いを感じることで、人の心は動かされます。何より自分の足を動かさなければ、一歩も前に進めないことを実感できるはずです。袖の中でカンニングしても、己の心が一歩も二歩も後退するだけです。勿論いくら袖の下を使っても、コロナは手加減をしてくれないのが現実です。そう思えばカンニングするよりも、ランニングをして自らの足で、世の中を渡っていく気概を持つべきでしょう。

 それでは又、2月11日よりお耳にかかりましょう。

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