テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1229話】「沙羅双樹の静寂」 2022(令和4)年2月11日~20日


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1229話です。

 「度すべき所の者は皆已に度し訖(おわ)って沙羅双樹の間に於て将に涅槃に入りたまわんとす、是の時中夜寂然として聲(おと)無し、諸(もろもろ)の弟子の為に略して法要を説き給ふ」と、『遺教経』の冒頭に示されています。

 今から約2500年前の2月15日に、お釈迦さまは80歳で、お亡くなりになられました。説法の旅を続ける中で、供養の食事の後、腹痛に見舞われ、ご自分の最期を悟ります。そして、説くべき教えは全て説いてきたが、最後に臨んで、仏法の要を伝えておく。そのような心境で残された遺教経の正式名称は『仏垂般涅槃略説教誡経(ぶっしはつねはんりゃくせつきょうかいきょう)』といい、「仏が涅槃に入ろうとするときに、簡略に説いた教え」という意味です。簡略にとは言っても、普通に誦(よ)んでも、30分はかかります。最後の力を振り絞って、諄々と説かれるお釈迦さまのお声に、弟子たちは耳をそばだてたことでしょう。沙羅双樹の林の静寂さが伝わって来るようです。

 さて、お釈迦さまの命日に近い2月11日は、野村克也さんの命日です。45歳まで現役選手を続け、監督になってからは、弱小球団を率いて、頭を使う野球を浸透させ、優勝に導くなど、その手腕は高く評価されています。その野村さんは「私は本当に幸せだった。あとは死ぬだけだ。もう十分生きたよ」と言っています。お釈迦さまと同じとは言いませんが、達観した言葉です。自分が死んでも、伝えるべきものは残した。何ら悔いはないという自負が言わしめたのでしょう。

 野村さんの教えを受けた一人に、現ヤクルトの高津臣吾監督がいます。「僕は全身、野村監督の野球でできている」というほどです。昨年最下位からセ・リーグ優勝を果たし、日本シリーズも制して、日本一にもなりました。昨年12月に野村さんをしのぶ会があり、高津監督が弔辞を述べました。その中で、最下位を率いている時、野村さんに「頭を使え、頭を使えば勝てる。最下位なんだから好きなように思い切りやりなさい」と言われたことを紹介していました。そして、私の役目は野村野球を継承し、残して、更に新しいものを加えて、今の選手に伝えていくことだと述べています。

 お釈迦さまの最期の説法に不忘念(ふもうねん)の教えがあります。「善知識を求め善護助を求めることは、不忘念に如(し)くは無し」つまり「善き師、善き友を求めるならば、正しい教えを念じて忘れないことに勝るものはない」ということです。高津監督はチームのどん底にありながらも、頭を使うという野村さんの教えを忘れず、次に伝える心意気を以って指揮してきたことが実ったのでしょう。十分生きて死に切った野村さんの教えは、着実に伝わっています。今年3回忌を迎えた野村さんも、沙羅双樹の静寂を味わっているような気がします。

 ここでお知らせいたします。1月のカンボジアエコー募金は、751回×3円で2,253円でした。ありがとうございました。

 それでは又、2月21日よりお耳にかかりましょう。

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