テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1071話】「當に行じる」 2017(平成29)年9月21日-30日

住職が語る法話を聴くことができます

1071.jpg お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1071話です。
 岡崎るみ子さんは、亘理町荒浜の當行寺の奥さまであり、徳本寺の御詠歌講の先生でもあります。海にも川にも近いお寺は、東日本大震災で津波が、床上まで浸水しました。彼女は寺を護るものの使命として、5冊の過去帳をビニール袋に入れて避難。車ごと流されたものの奇跡的に無事でした。過去帳を濡らさないようにと、よその家の給湯器の上で救助を待って助け出されました。その年の6月大勢のボランティアの手助けの下、浸水した建物を修復する過程で、ある箱に出会います。開けてみると、自分の父である前住職が保管していた古い写真が1枚出てきたのです。
 下駄履きで菅笠を被った着物姿の男女5人が写っています。襷がけで手には御詠歌で使う鈴と撞木を持っています。男性の持つ旗には「たすけあい愛の運動 亘理町社会福祉協議会」と書いてあります。亘理町によると、これは今から60年ほど前の昭和30年代に行われていた助け合い運動だろうとのこと。リヤカーを引き一軒一軒お米を集めて、恵まれない方にお分けしていたそうです。
 るみ子さんは「写っている姿から夏の時期なので、御詠歌をお唱えしてお盆の供養を兼ねながら、助け合い運動に歩いていたのでしょう」といいます。因みに彼女の祖母も写っていますが、確かに御詠歌を習っていたそうです。ただその御詠歌は現在の曹洞宗の梅花流ではなく大和流でした。その後、お母さんの代から梅花流の御詠歌になりました。
 流派はともかく、御詠歌には仏の教えに親しんでいただきたいという願いがあります。その教えの最たるものは、自分は仏にならずとも、困っている人に手を差し伸べるという行いです。これを利行つまり他を利する行いといいます。お米を集めての助け合いや震災時のボランティアなどすべて利行です。では利行を詠った梅花流「四摂法御和讃(ししょうぼうごわさん)」の3番をお聴き下さい。
 「己(おの)れの益(さち)を先とせず 衆生(ひと)の為にとなす利行(わざ)は 生きとし生けるものみなの 光となりて世を照らす」
 お唱えいただいたのは岡崎るみ子さんその人です。祖母や母から受け継いだ寺を護る使命感を感じさせるお唱えでした。それが震災時の行動に現れ、過去帳を護り、図らずも一枚の写真に光を当てました。そして60年前にもあった他を思いやる御詠歌の心に命を吹き込んだのです。震災で多くのものが失われましたが、利行は流されませんでした。これからも當行寺という名の如く、他を利するためじていくことでしょう。
 それでは又、10月1日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【1308話】
「花咲か爺さん」
2024(令和6)年4月21日~30日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1308話です。 枯れ木に花を咲かせたのは「花咲か爺さん」、被災地の荒地に花を咲かせたのは「NPO法人三島緑の会」です。静岡県三島市の団体で、東日本大震災後の2013年から日本沙漠緑化実践協会の植樹活動に参加し、毎年山元町に桜を植樹して下さっています。一昨年はコロナ禍のためお出でいただけませんでしたが、苗木を送って下さいました。縁... [続きを読む]

【1307話】
「揺らがず大遠忌」
2024(令和6)年4月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1307話です。 たとえばですが、「正月の元旦に地震の避難訓練をします」と言われて、参加しますか?正月早々とんでもないと、誰でも思います。しかし無常なる自然は、正月とか人間の都合に忖度しません。能登半島では元旦にとんでもない地震が起きたのです。 実は能登半島は曹洞宗にとっては聖地です。曹洞宗に... [続きを読む]

【1306話】
「シッダールタ」
2024(令和6)年4月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1306話です。 「文殊丸」「行生」という2人の名前で、どなたかわかりますか。ヒントはどちらも曹洞宗に関わる方です。文殊丸は大本山永平寺を開かれた道元禅師、行生は大本山總持寺を開かれた瑩山禅師の幼名です。昔は幼い時に仮に名付ける名前や元服以前の名前を持つことがあったようです。 さて、4月8日は... [続きを読む]