テレホン法話
~3分間心のティータイム~
【第996話】「逆にこちらが」 2015(平成27)年8月21日-31日
住職が語る法話を聴くことができます
お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第996話です。
最近ちょっと気になる言葉遣いに「逆に何々する」というのがあります。「反対に」という正当な意味で使われるのは、良しとしても、単なる接続語的な意味合いで使われることも多いようです。「あなたはご飯が好きかもしれないが、逆に私はパンが好き」などと言うときです。この場合「逆に」という言葉がなくても通じます。内容も相反するものではなく、ご飯とパンの羅列です。
東日本大震災以後、よく耳にした言葉に「震災の支援に来たつもりが、逆にこちらが励まされました」というのがあります。この逆には「反対に」という意味で、使い方に問題はありません。著名人などが避難所や仮設住宅を訪れて、歌や芸能を披露して、みなさんから拍手をいただき、こちらが勇気をもらいましたなどと、言っていることがよくありました。またボランティアで訪れたときに、たいへんな状況にありながら、笑顔で頑張っている被災者に合い、こちらが励まされましたと感想を述べている人もいます。
その言葉や感想に嘘はないでしょう。すごく格好いい響きに聞こえます。自分たちの支援は二の次三の次で、被災者を称えているようにも思えます。でも被災地にいる者として、その種の言葉を耳にすると、素直に納得できない気分になることがあります。
支援に来た人は勇気や励ましをいただき、帰ってしまいます。被災地で支援をしたという満足感もあるでしょう。被災地の人も、著名な人がわざわざこんなところまで来て、私たちのために心を尽くしてくれたことに対して、感動を覚えたり、その後の生活の張り合いになったりもするかもしれません。でも、被災地を離れることはできず、気の遠くなるような復興へ向かわなければならないという現実に戻されます。
支援に来た人が住んでいる環境と、被災地の環境は明らかに違うのです。「こんなたいへんな状況でも笑顔でいることができるってスゴイ!」「私だったらとてもムリ!」と思うから、簡単に「励みや」「勇気」をもらうようになるのでしょう。その言葉を聞けば聞くほど、「違う環境から支援に来た人なんだ」と醒めた思いになるものです。だから「逆にこちらが励まされました」という言葉を「逆にこちらはとり残された」と捉える人も出てきます。
誤解しないで下さい。支援や訪問が有難迷惑だと言っているのではありません。悲しそうな人がいたら一緒に泣いて「悲しいね」と言ってくれたらいいし、共に笑い合って「楽しいね」と言ってもらえることは、心から有り難いのです。そこから先の自分の感想は胸に納めておいていただきたいと思うのです。そしてほんとうに励まされたと思ったら、支援にこだわらず忘れずにまた被災地を訪れて下さい。逆に私たちはその方がうれしいのです。
それでは又、9月1日よりお耳にかかりましょう。
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