テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第879話】「りんご」 2012(平成24)年5月21日-31日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第879話です。
20120521_1.jpg アダムとイブは禁断の実であるりんごを食べたことから、人間の原罪を負うことになりました。ニュートンはりんごが木から落ちるのを見て、万有引力を発見したと言われています。ビートルズのレコードは、ビートルズの運営するアップル社から発売されていました。そして、アメリカのアップル社といえば、スティーブ・ジョブズの創設によるパソコンの会社で、歴史的偉業を成し遂げ、現在に至ります。まるでりんごは、人類の歴史の一翼を担っているかのようです。
 そのスティーブ・ジョブズは、残念ながら昨年10月5日に56歳という若さで、亡くなっています。20歳の時に、自宅ガレージからスタートして、ホームコンピュータを開発、その後パーソナルコンピュータで、大成功を収めました。25歳で長者番付にのるなど、アメリカンドリームそのものでした。しかし、会社を興して10年後の30歳のとき、その会社から解雇されるという不遇を味わいます。でも彼は言います。「アップルから追い出されたことは、人生で最も幸運な出来事だった」と。その後の5年間で、別の会社を起業し、妻となる素晴らしい女性とも巡り合います。そして、起業した会社の業績を携え、アップル社に復帰することができました。
 実は彼は、熱心な曹洞宗の禅の信奉者であったのです。会社を起こす前の19歳から、アメリカの曹洞宗の禅堂で修行を積み、出家すら考えたこともあるという程の人物です。20世紀のアメリカは、大量生産、大量消費によって経済を発展させ、人々を豊かにしていくものだと信じられていました。コンピュータをはじめとする科学文明の進化が、それを後押ししてきました。アップル社の成功もこの流れに乗ったものでしょう。しかし21世紀に入り、人々は火がついた欲望には際限がないことを知り、ものの豊かさで心の豊かさを図ることはできないことに気付き始めました。
 そうです。ジョブズは17歳の時に、「毎日をそれが人生最後の一日だと思って生きれば、その通りになる」という言葉に出会っています。以来、毎朝鏡に映る自分に問いかけます。「もし今日が最後の日だとしても、今からやろうとしていたことをするだろうか」と。更に言うことには、「自分は間もなく死ぬという意識が、重大な決断を下すときに一番役立つのです。なぜなら永遠の希望やプライド、失敗する不安・・・これらはほとんどすべて、死の前には何の意味もなさなくなるからです」
 禅は究極の生き方を問いかけています。今思っている欲望は、人生最後の一日にまで及んで、満たさなければならないものなのか。生きる上でほんとうに必要なものなのか、と。死にそうになってからではなく、元気な今こそ最後を思い、死を意識することによって、より良い生き方に向かえます。東日本大震災の惨状を見て、この世の終わりと思ったあの時を振り返ってみて下さい。生きる上で、ほんとうに必要なものが見えていたはずです。
 「明日 地球が滅びようとも 君は 今日りんごの木を見る」。さて、そのりんごをあなたはどうしますか。ビートルズのリンゴ・スターなら言うでしょうか。let it beあるがままに――。
 それでは又、6月1日よりお耳にかかりましょう。

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