テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第916話】「鍬を挿む人」 2013(平成25)年6月1日-10日

住職が語る法話を聴くことができます

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第916話です。
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 お寺は山にたとえられ、名前の上に山号というものがつきます。そして、住職に就任し披露する式を、山に晋(すす)むということで晋山式(しんさんしき)といわれます。同じ山元町内の曹洞宗圓通山普門寺で、先月その晋山式がありました。住職の坂野さんはその寺に入ってから、20年以上も勤めています。晋山式を、住職就任時に行うことができれば、理想ですが、一世一大の行事だけに、相当の準備期間が必要となります。加えて20年前の普門寺は、本堂があったものの雨漏りがするし、住まいとなる庫裡もありませんでした。
 坂野さんは、長い年月をかけて、檀家さんと共にお寺としての環境を整えてきました。本堂の屋根吹き替え等の改修工事、会館の建設、そして平成22年には庫裡も完成しました。いよいよ晋山式に向けて、本格的な準備に入ろうとしていた矢先に、大震災が発生。海がすぐそばの普門寺のあたり一帯は、大津波がもろに襲い、景色を一変させました。寺の建物は残ったものの、本堂の中に松の木が入り込み、向拝という玄関部分が傾き、本尊さん以外はすべて流されてしまいました。やっとこれから住まいするはずだった庫裡も破壊され、再生は不可能かと思われほどで、境内は瓦礫の山、お墓は砂に埋もれているという絶望的な状況でした。
 しかし、坂野さんは一念年発起し、一人で寺の再建を目指します。ガソリンがない時だったので、自転車で通い、亡くなった檀家さんの供養を勤めながら、瓦礫の撤去、お墓の砂出し等に専念します。危険地帯のため、ボランティアも派遣されなければ、安全の保障がないので手伝いも断っていました。2ヶ月ほど過ぎて、あるボランティアの方から是非手伝わせて下さいという申し出があり、受け入れを決心します。以後、全国からボランティアの方が訪れるようになり、復興が加速しました。
 そして、この度の晋山式です。あれからわずか2年余りで、このような盛大な法要を営めるまでになるとは、誰もが信じられない思いであり、感慨ひとしおでした。晋山式というお祝いに因んで、新たに就任した住職は須弥壇に上り、大勢の和尚さんと大問答を交わす儀式があります。ある和尚さんが尋ねました。「住職さんにとって、普門寺とはなんですか」。坂野さんはきっぱりと答えました。「私にとって、普門寺は命よりも大切なものです」。2年前の絶望的な状況から、命を懸けて復興に力を尽くした人だからこその、偽らざる言葉でしょう。
 大本山總持寺を開かれた瑩山禅師様の言葉に、「法堂上に鍬を挿(さしはさ)む人を見る」というのがあります。法堂とは本堂のこと。本堂を田畑にたとえ鍬で耕すとは、仏道修行をしていることを意味するものでしょう。この度の晋山式は、まさに仏道修行の何たるかを示して余りある法要でした。私は圓通山上に瓦礫を除き、柱を建てた有力(うりき)の大人(だいにん)、つまり修行の円満した徳のある人を見る思いで、須弥壇上の住職さんを仰ぎました。彼の持つ鍬は、これからは普門寺のみならず、被災地をも耕す力となることでしょう。
 それでは又、6月11日よりお耳にかかりましょう。

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