テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第929話】「やさしき覚悟」 2013(平成25)年10月11日-20日

住職が語る法話を聴くことができます

 929.JPG お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第929話です。
 江戸時代のこと、ある禅僧が弟子たちに問題を出しました。「おまえの父と母が川で溺れかけている。父と母どちらを先に助けるか、おのおの考えを述べよ」。弟子たちは議論を始めました。しかし、一向にまとまらず、答が出ません。とうとうその禅僧は、全員を叱ります。「いつまでも議論ばかりをしていたら、両親とも溺れてしまうぞ!」
 命に係わる一大事というときに、悠長に議論などしていられないはずです。禅僧は弟子たちの「覚悟」を聞きたかったのです。しかし、弟子たちは出された問題は、あくまでも机上の空論だと思っていたので、黙ってしまうだけでした。「情けない、それでもおまえたちは、禅をかじった人間か!」と更に叱咤の声が飛びます。一人の弟子が恐る恐る尋ねます。「先生であれば、どうなさいますか、教えて下さい」「わしなら、手当たり次第に助けるだけじゃ」
 一大事のとき、どんな行動をとるべきか、あらかじめ議論を重ね想定しておくことは大事です。しかし、現実に危機に遭遇したとき、想定のように行動できるとも限りません。最後はその人自身が腹をくくることができるかどうかです。そのためには、普段からの議論よりも、覚悟を決められる心の鍛練が大事になってきます。
 さて10月1日、JR横浜線の踏切で、線路内にいた74歳の男性を助けようとした40歳の女性が、列車にはねられ死亡しました。男性は重傷を負ったものの、命に別状はありませんでした。状況はこうです。男性が線路上に横たわったまま、踏切の遮断機が降りてしまいました。先頭で踏切待ちをしていた車の助手席にいた女性は、とっさに「助けなきゃ」と言って、車を降りました。運転席にいた父親が「ダメだよ」と制するのを、振り切って行ったとのこと。踏切に入り、線路上に腹ばいになっていた男性のもとにしゃがみ込んで、動かそうとしたといいます。
 目の前で犠牲になった娘のことを父親は、「困っている人を放っておけない子だった。男性には長生きしてほしい」と涙ながらに語っていました。女性を知る人たちも、道に迷った高齢者や酒に酔った人を介抱し、名前や住所を聞いて家族に連絡してあげることもあったなどと、その温厚でやさしい人柄に触れていました。
 踏切事故は現実に起こり得るし、その場に立ち会うこともないとは言えません。そのことについて、議論はいくらでもできるでしょう。我がこととして現実になった時に、その覚悟ができるでしょうか。いささか坐禅をしている私ではありますが、女性のような行動をとる自信はありません。今はただ、女性のご冥福を祈りつつ、もっと手当たり次第に時間を作り、坐禅に打ち込み、「やさしき覚悟」を極められるよう精進しましょう。
 ここでお知らせです。10月20日(日)午後2時、徳本寺において「第7回テレホン法話ライブ」を開催いたします。ピアノ演奏にのせて法話を語ります。特別ゲストは、津軽三味線日本一の柴田三兄妹です。入場無料。
 それでは又、10月21日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【第1226話】
「師弟のナビゲーション」
2022(令和4)年1月11日~20日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1226話です。 「お寺でーす」と元気のいい声が、檀家さんの玄関先に響きました。おそらく檀家さんは、「あれ、今年の年始廻りの和尚さんの声が、ちょっと違うな」と思ったことでしょう。実は昨年縁あって徳本寺に弟子を迎えました。仙台市出身の小林信眼さん27歳です。その彼と一緒に年始廻りして、正月のお札を檀家さんにお配りしたわけです。 信... [続きを読む]

【第1225話】
「虎が転じる福」
2022(令和4)年1月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1225話です。 あけましておめでとうございます。今年は寅年ですが、「虎を野に放つ」という諺があります。猛威あるものを野放しにするということです。新型コロナが世界中に猛威を振るっている状況を思わずにはいられません。決して野放しではないでしょうが、対策がウイルスの勢いに追いついていません。丸2年も... [続きを読む]

【第1224話】
「聞声悟道」
2021(令和3)年12月21日~31日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1224話です。 作家の瀬戸内晴美さんは、51歳で出家して、寂聴という名前を授かりました。出家した者は、心乱さずして仏の声を聴くという「出離者は寂なるか、梵音(ぼんのん)を聴く」に由来しているそうです。惜しまれながら、11月9日99歳で亡くなられました。 その輝かしい生涯の中でも、一貫して反戦... [続きを読む]