テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第849話】「前人未到へ」 2011(平成23)年7月21日-31日

住職が語る法話を聴くことができます

 20110721-3.JPG
 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第849話です。
 未曾有とか千年に一度の大災害ということは、ほぼ誰もが経験のしたことのないような状態をいうのでしょう。災害とは全く別ですが、これまで誰もが経験したことのない前人未到の領域に入った人がいます。大相撲の大関魁皇です。名古屋場所5日目の7月14日に、通算勝ち星1046勝をあげ、元横綱千代の富士の記録を抜き、単独1位になりました。超える力士はいないとさえいわれた記録を20年ぶりに塗り替えました。
 名古屋場所の初日から3連敗をしての足踏みは、記録への1勝の重みを感じさせました。4日目にやっと千代の富士の1045勝に並び、5日目に新記録の達成です。「いつも、何をやっても、思い通りに行かないのが自分の人生。自分らしいといえば、自分らしい」と、その心境を語っています。思い通りに行かないことは多々あったことでしょう。7年前に4度目の「綱とり」に挑みながら失敗。以後は負傷を重ね、いつ引退してもおかしくない土俵を続けていました。とはいえ、昭和も終わりの昭和63年夏場所初土俵を踏み、23年間140場所をかけて築いた記録です。
 千代の富士の記録との比較を問われ「千代の富士は余力があって引退した。自分は必死こいてやっと並んだ。較べるのも申し訳ない」と、やっとの思いでここまで来たことを強調しています。確かに千代の富士の負け数は437敗ですが、魁皇は695敗でその差は258敗もあります。見方を変えれば、千代の富士より258回も多く悔しい思いや、挫けそうになりながらも、めげずに心を奮い立たせて、土俵に上がり続けて来たということでしょう。よほど精神が強靭でなければできない技です。
 小泉元総理の物真似でお馴染みの松下アキラ曰く「苦しい人生だけど 前向きに生きているからこそ 苦しい」。負けたと言っては弱いからと諦めて、稽古をしなければ楽かもしれませんが、それは後ろ向きの人生でしょう。700回近く負けても、前向きに相撲に取り組む姿勢が、今日の魁皇の記録に繋がりました。ここ数年は、治療とリハビリの合間に相撲を取っているかのような、その体調だったようです。満身創痍ながらの前人未到です。
 さて、被災地にいる私たちは「思い通りに行かない」というより、「思わぬような」巡り合わせに、誰もがこんな人生があるとは夢にも思わなかったと感じていることでしょう。人も環境も満身創痍の現状です。苦しいことのみ日々襲ってくるような気さえします。しかし苦しいと思えるのは、自分が前向きだからなんだと思うことにしました。後ろを向いていても立ち直ることはできません。前を向いていればこそです。この未曾有の災害から立ち直れば、それこそが前人未到と誇れます。津波に負けない希望という舟を漕ぐ時です。「必死こいて」みましょう。
 それでは又、8月1日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【1324話】
「少年の心
達磨の心」
2024(令和6)年10月1日~10日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1324話です。 心理学者の児玉光雄は、大リーグの大谷選手を「少年の心を持つスーパーアスリート」と表現しています。少年時代から野球を楽しむ心を忘れず、自発的に物事に取り込める姿勢が、想像を超えた活躍に繋がっているというのです。 大谷選手は50-50つまり、50本塁打50盗塁という夢のような記録を、軽々と超えてしまいました。アメリ... [続きを読む]

【1323話】
「土俵に彼岸を見た」
2024(令和6)年9月21日~30日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1323話です。 大相撲秋場所6日目結びの一番。大関豊昇龍が平幕王鵬にすくい投げで敗れました。余程悔しかったのでしょう。土俵を拳(こぶし)で突き、きちんと礼をすることなく、花道に向かったところ、審判長に呼び止められ、再び土俵に上がります。そこでも礼が合わず再びやり直しをさせられました。洒落ではあ... [続きを読む]

【1322話】
「醍醐味は元気でゆっくり」
2024(令和6)年9月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1322話です。 牛乳の精製過程の5つの味のうち、最後に出てくる最上の味を醍醐味と言います。仏教ではそれを最高の境地の涅槃にたとえます。そして醍醐の原語は「サルピル・マンダ」で、あのカルピスの名称の元であると言われます。そのカルピスが好物で、116歳の今も元気で世界最高齢に認定されたのは、兵庫県... [続きを読む]