テレホン法話
~3分間心のティータイム~
【第887話】「浮かぶ瀬」 2012(平成24)年8月11日-20日
住職が語る法話を聴くことができます
お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第887話です。
―夏雲や 生き残るとは 生きること―これは昨年の俳句甲子園で優秀賞になった黒沢尻北高校3年の佐々木達也君の作品です。高校生の俳句大会ですが、昨年というところがミソです。私たちは普通「生き残る」というような思いを抱いて生きているでしょうか。何となく生きているということもあるでしょうが、前を向いて生きていれば、ただ「生きている」あるいは「生きていくぞ」という思いが強くなるような気がします。
それが、昨年の東日本大震災の惨状を目の当たりにしたり、大切な人を喪ってしまった人は、どうしてもその時への思いが離れません。つまり後ろを向いてそこに自分を置いてしまうことになります。一家の中で、若い人が亡くなり、残されたお年寄りが、代われるものなら私が犠牲になればよかったものを、と嘆いた方がいます。しかし、それを聞いて、亡き人が喜ぶわけがありません。万が一代わることができたとして、生きている人が死んで、亡き人が息を吹き返したとしたらどうでしょう。その生き返った人は、死んでいった人を悼み、自分のせいで死んでしまったと自責の念に駆られることになります。
命あるものは、その長さは違っても、どんなものでもその数は、等しく一つだけです。まさにかけがえのない命です。スペアもなければ、誰かの命と交換もできません。大震災を乗り越えたという思いが、生き残ったといわしめることは理解できます。だからこそ、生き残ったという意識を、これから生きていくエネルギーに変えていくことが、生きていく者の務めでしょう。
8月はお盆の季節でもあり、命を想う月とも言われます。たった一つの命をこの世で生きて、亡くなった人が、お盆の間私たちを訪ねて下さいます。その最大のおもてなしは、生きている元気な姿をお見せすることではないでしょうか。よく「亡き人が浮かばれる」という言い方をします。死者の霊が安らかである状態あるいは成仏したということでもあるでしょう。もし亡き人があの世で、安らかでないとしたら、それはいじめにあっているからではありません。この世の私たちが、何か心配をかけているからでしょう。生きている私たちが安らかな生き方をしていれば、それがそのまま、あの世にいる人にも反映されます。
生き残ったものの、辛いことが続いて生きているのがたいへんと思っても、何とか生きなければ、あの世の人は浮かばれません。私たちはどんな困難があろうと、命を捨てるくらいの気概でことに当たれば、きっと道は拓け、あの世の人もこの世の人も浮かばれるはずです。身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ、です。
ここでご報告致します。7月のカンボジア・エコー募金は、121回×3円で363円でした。ありがとうございました。
それでは又、8月21日よりお耳にかかりましょう。
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