テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1092話】「値打ちのある長寿」 2018(平成30)年4月21日-30日

住職が語る法話を聴くことができます

1092.JPG お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1092話です。
 両親なしにこの世に生まれてきた人はいません。誰でも2人の親がいます。その親にもそれぞれ両親がいますので、4人の祖父母となります。その4人にも両親がいますから、曾祖父母は8人になります。こうして5代遡って先祖の数を合計すると、62人になります。
 さて、お檀家のとし子さんは、12人兄妹の一番上として生まれました。大正4年のことです。先月末104歳の天寿を全うされました。晩年の数年間は施設にお世話になりましたが、生涯を通じてかくしゃくたる人生を送ったことは、自他ともに認めるところです。魚よりも肉料理が好きだったとのことですが、それも長生きの要因だったのでしょうか。
 そのお葬儀には、大勢の方が参列されました。それもそのはずです。とし子さんは7人の子どもに恵まれました。そして、孫は14人、曾孫(ひまご)は28人です。更に玄孫(やしゃご)が2人です。直系の親族だけで51人になります。5代遡った先祖の合計は62人と言いましたが、直接出会える先祖はせいぜい10数人でしょう。とし子さんは4代先までの子孫51人を、その腕に抱くことができたのです。
 孫さんがいる方は想像してみてください。玄孫とは孫の孫を言います。その子に巡り合えるのは稀でしょう。葬儀の導師として長生きの方を何人もお見送りしましたが、玄孫に見送られた方は極わずかです。長生きだけでは実現できません。良い巡り合わせの循環があって、初めて叶うことです。
 遺族の方はおっしゃっていました。「母は今、とても安らかな表情をしています。まるで眠っているかのようですで、また目を開けて笑ってくれるのではないかと思えるほどです。それはきっと、母が自分の人生に満足していた証なのでしょう」。正真正銘の大往生を目の当たりにした思いです。
 「老いが死の恐怖を弱めるのは確かでしょう。それだけで長寿は値打ちがある」とは、学哲学者鶴見俊輔の言葉です。私たちは、数えきれない先祖の血や想いを受け継いでいると思えば、生きる意味も力も湧いてきます。更にとし子さんの場合は、自分の血や想いを受け継ぐ、多くの子孫の笑顔に囲まれて暮らしてきたのです。そのことの満足と、たとえ自分が亡くなっても、こんなに大勢の子孫につながり生かされていくんだという安心感があったのではないでしょうか。値打ちのある長寿です。
 「恋しくば おのが躰に触れてみよ かたみに残る母の温(ぬく)もり」とし子さんを拝むご遺族の方にとっては、合わせた手のぬくもりの中に、いつも104歳の人生が生き続けることでしょう。
 ここでお知らせ致します。10年間のテレホン法話ライブを紙上再現した『月を流さず―和尚の語り草―』が出版されました。電話ではお伝え出来ない法話に因んだ写真も掲載された読みやすい本です。定価1500円。ご希望の方は徳本寺までお申し込みください。電話0223-38-0320です。ホームページからの場合はこちらをご覧ください。
 それでは又、5月1日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【1317話】
「18歳と81歳」
2024(令和6)年7月21日~31日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1317話です。 「年齢7掛け説」というのがあるそうです。健康な現代人の年齢は、3割若く数えても大丈夫だということです。60歳なら42歳、70歳なら49歳、80歳なら56歳という風にです。50代・60代の頃はさもありなんと思っていましたが、さすがに70歳を超えると、8掛け・9掛けが現実に即している気がします。 さて、ある方から「... [続きを読む]

【1316話】
「不二山」
2024(令和6)年7月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1316話です。 東京都国立市では、駅前から伸びる通りを富士見通りと称しています。晴れた日には富士山を望めるからです。2年前にこの通りにマンション建設の話が持ち上がりました。地元では景観をめぐって反発したものの、建築基準法上の問題はないということで着工、先月完成しました。しかし引き渡しまじかにな... [続きを読む]

【1315話】
「一心松」
2024(令和6)年7月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます 元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1315話です。 東日本大震災で大津波を目撃した人は、「松林の上から黒い煙が出ているように見えた」と言っていました。最大波12.2㍍ともいわれる津波が、わが山元町の沿岸部の松林を根こそぎ破壊しました。松は養分や水分がなくても育ち、塩害や風にも強いことから、防風林・防砂林として用いられてきました。し... [続きを読む]