テレホン法話
~3分間心のティータイム~
【第877話】「潮時」 2012(平成24)年5月1日-10日
住職が語る法話を聴くことができます
お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第877話です。
「名も知らぬ遠き島より 流れ寄る椰子の実一つ・・・」で始まる「椰子の実」という詩は、島崎藤村の作であることはよく知られています。元はと言えば、明治31年夏に、柳田國男が愛知県の伊良湖(いらご)岬に滞在時のこと。「風の強い翌朝は黒潮に乗って幾年月の旅の果てに、椰子の実が一つ流れ着いていることがある。潮の流れから、日本民族の故郷は南洋諸島だと確信した」という話を親友の藤村にしたことがありました。藤村はその話にヒントを得て、「椰子の実」という詩を書いたと言われています。
藤村の時代から百年以上の歳月を経て、昨年の東日本大震災が発生して、改めて太平洋の潮の流れを実感させられる出来事がありました。今年3月15日、アメリカのアラスカ州に住む技術者のバクスターさんは、通信設備の操作のためアラスカ湾のミドルトン島を訪れた際に海辺で、サッカーボールとバレーボールを見つけました。二つのボールには日本語のような文字が書いてありました。たまたまバクスターさんの妻ゆみさんは日本人だったので、それを見て、被災地のものではないかと、すぐにぴんときたそうです。
ボールの文字をもとにネットで調べた結果、サッカーボールの持ち主は、岩手県陸前高田市の高校2年生の村上さんとわかりました。彼が7年前、小学生で転校した時に、同級生や先生に寄せ書きをしてもらったボールでした。ベットのそばに網に入れてつるしていたものの、自宅は津波で流出。自宅跡からは何も見つかりませんでした。それなのに、一個のサッカーボールが、震災から一年後に5千キロ以上離れたところに漂着して発見されたのです。
もう一つのバレーボールも持ち主がわかりました。やはり岩手県田野畑村出身の19歳の佐藤さんです。彼女が小学校卒業のとき、記念にバレーボール部の後輩から贈られたものでした。実家は津波で家財道具はすべて流されました。バレーボールは2階に置いてあったそうですが、寄せ書きの文字も消えずに、一年間漂流しながらも、無事だったわけです。
私たちも浜辺を歩いていて、様々な漂着物を目にしますが、ほとんどは気に留めることもなく、見過ごしてしまします。たまたまそのものが珍しくて、手に取ってみたとしても、持ち主を捜そうとまでには至らないような気がします。柳田國男の関心事が、椰子の実一つを見逃さなかったように、この度のボールは、東日本大震災が、全世界的な出来事として、多くの人々に関心を抱いてもらっていたからこそ、持ち主を捜し当てられたのでしょうか。それは、何もかも流されても被災地だって、ボールのように元の故郷に戻られることを暗示しているかのようです。
椰子の実もボールも潮の流れに乗り易いと言えばそれまでです。潮の流れは時間も距離も超えて、人の心にロマンを抱かせ、夢と希望と感謝の思いをもたらしてくれます。今回のアラスカでボールが発見されたことが、復興への潮時となることを願うばかりです。
それでは又、5月11日よりお耳にかかりましょう。
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