テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第993話】「当たり前」 2015(平成27)年7月21日-31日

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 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第993話です。
 「暑い」の反対語は「寒い」、「長い」の反対語は「短い」です。それでは「ありがとう」の反対語は何でしょう・・・。それは「当たり前」です。
 隣町の福島県新地町に住む友人がいます。彼の家は海のすぐそばにありました。東日本大震災の大津波で、彼の家も含めて当たり一帯の家屋はすべて流されてしまいました。以来仮設住宅で生活をしていましたが、この春やっと災害公営分譲宅地の一画を購入し、新居を建てて引っ越しました。先日、他の友人4人と一緒にお祝いに駆けつけました。
 そこでひとりの友人が聞きました。「家を流されて何もかもなくなるということが、想像できないけど、その時はどんな気持ちだったの」彼は答えました。「震災翌日住んでいたところに行ってみたが、ほんとうに何もかもなくなっていた。箸一本すらもないんだ。あまりにきれいさっぱりなくなっているので、感情に表すこともできなかった」
 それから彼は、着の身着のままで、避難所でのお世話役を引き受け奔走します。間もなく支援物資が届き、下着等の着替をすることはできましたが、その時一週間以上着ていた上着は、今も捨てられず取ってあるそうです。幸い彼の家族はみんな無事でした。
 震災発生時、職場にいた彼は、よもや家まで流されるとは思いもしなかったことでした。ほとんどの人がそうでしょう。仕事が終わって帰れば、家があって風呂に入って汗を流す。茶碗にもられたご飯を箸でいただく。笑い合う家族がいる。みんな当たり前のことが、あの日も続くことを誰も疑わなかったはずです。
 普段私たちは家に帰って、家の柱にありがとうと言うでしょうか。お風呂のお湯に、おかげさまで疲れがとれましたと礼を言うでしょうか。食事のとき「いただきます」と言うのがせいぜいかもしれません。家族同士で今日も無事だったねと、お互いに労(ねぎら)いの言葉を掛け合っているでしょうか。心で思っても、口に出すことはほとんどないのではないでしょうか。当たり前になれてしまうと、感謝の気持ちが薄れてしまいがちです。しかし、彼のように当たり前の生活をすべて流されながらも、精進に精進を重ねながら、家がある風呂がある箸でご飯をいただけるという、当たり前の生活をとり戻した人は、当たり前の有り難さを実感しています。
 震災後、彼が心がけていることは、もうこれ以上は流されないぞと、強い気持ちを持つことだそうです。それは、あの困難を乗り越えて今に至っているのは、当たり前ではなく、有ることが難しいのに今有る、ほんとうに有り難いことなんだという実感でしょう。そして、彼にとっては、「ありがとう」と「当たり前」は、反対語ではなく同意語になっています。
 それでは又、8月1日よりお耳にかかりましょう。

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