テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1128話】「我々の貴婦人」 2019(平成31)年4月21日~30日

住職が語る法話を聴くことができます


 
 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1128話です。

 徳本寺は江戸時代に、2度火災に遭って本堂を焼失しています。今から334年前の貞享2年11月とそれから91年後の安永5年3月です。当時は現在地よりも2キロほど西にありました。2度目の火災の75年後に、現在地に移り、本堂が再建されました。寺院が火災に遭った話はよく聞きます。一瞬にして何百年もの歴史を失うこともあるわけですから、想像を絶する出来事です。

 フランスのパリで15日の夜、世界遺産でもあるノートルダム大聖堂で、火災が発生。8時間以上に亘って燃え続け、大半の屋根が焼失。パリのどこからでも見え、街の象徴だった高さ96メートルの尖塔も崩落してしまいました。日本で言えば平安時代の後期、1163年に建造が始まり、182年後の1345年に完成した初期ゴシック建築の傑作と言われています。年間1200万人が訪れ、宗教を超えて親しまれている観光名所でもあります。

 「ノートルダム」とはフランス語で「我々の貴婦人」という意味です。それは大聖堂が聖母マリアに捧げられたことに由来します。850年以上パリの歴史を見守り続け、フランス人の精神的支柱でもありました。毎週欠かさず大聖堂で礼拝しているという人は、「自分の魂の一部のようなものだ」と言っています。

 寺院や神社・教会などの祈る場所というのは、祈る対象となる仏像やマリア像が祀られていればいいというものではありません。お像や堂内の神聖さは勿論求められますが、それなりの外観の荘厳さもなくてはなりません。加えてどれだけの歴史があるかということも重要です。

 私たちの一生はせいぜい百年です。限られた歳月の中で確固たる信仰心を培うには、あまりにも非力(ひりき)です。しかし数えきれない人々がお参り続けてきたという歴史が、信仰の背中を押すことがあります。それは自分一人ではない、過去の人もみんな悩み、癒しを求めて、お参りしてきたのだという安心感のようなものでしょうか。ましてや、仰ぎ見るような建物を前にした時、心の高ぶりを覚えることがあります。洋の東西を問わず、宗教的建物は屋根が象徴的に作られています。

 その建物は、信仰心の入り口のひとつとしても価値のあるものです。だから、たとえ火災に遭っても、自分たちの祈りの場を再建しようと、徳本寺も2度の火災をのり越えてきました。ノートルダム大聖堂は、世界中の篤き信仰心と尊い歴史観を持つ人々の手で、きっと再建される日が来ると信じます。火災翌日には1000億円を超える大口寄付が寄せられています。「世界中の寄付人」が「我々の貴婦人」に手を差し伸べてくれることでしょう。

 それでは又、5月1日よりお耳にかかりましょう。

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