テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第892話】「老僧のお袈裟」 2012(平成24)年10月1日-10日

892n.jpg お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第892話です。
 東日本大震災以降、何度か西日本を訪れる機会がありました。それは、こちらの人は被災地から遠く離れていて、震災のことを身に染みて感じることができないので、被災地の生の声を聴かせて欲しいという依頼があってのことです。確かに生放送の報道番組を見ることができても、報道できる内容にも時間にも、かなり制約があります。被災地の息遣いというものまで伝わらないかもしれません。
 それでも、先日、中国地方に行って驚きました。山口県・島根県・鳥取県などの方の前でお話をしたときです。それぞれの県の青年僧侶で、被災地支援のため、これまで定期的に、ボランティアで通っている方が何人もいました。1000キロから1200キロの距離を、夜通し車を運転して、朝方到着するなり、寝る間も惜しんで、それぞれの活動に勤しんでいるとのことでした。被災地への想いは、時間空間を超えて、その人の志にこそあることを教わりました。
 その志は若い人ばかりではありませんでした。ある山口県の老僧が控室に私を訪ねてこられました。そして、大きな風呂敷包みを広げて「私は齢(とし)も齢ですし、大病をした身体です。とても被災地を訪れることができません。これは私が愛用していたお袈裟です。どうかこれを着けて、犠牲になられた方の供養のお勤めをしていただきたいのです」とおっしゃるのです。それは金襴のたいそう豪華なお袈裟でした。恐れ多くて素直に頂戴致しますとは言えるものではありませんでした。何度もご辞退を申し上げました。それでも「私にはこんなことぐらいしかできません。お恥ずかしい限りですが、堪えて下さい」とのことで、老僧のお気持ちを被災地に届けるつもりで、押し頂いて参りました。
 お袈裟にもいろいろ種類があります。普段のお勤めで着けるもの、一生に何度もないような大法要の時に身にまとうもの。老僧のお袈裟は後者に属するでしょう。それを惜しげもなく、初対面の私に託された老僧の道心の篤さには、ただただ手を合わせるばかりでした。
 お袈裟を身に着けるとき、「大哉解脱服(だいさいげだっぷく)無相福田衣(むそうふくでんえ)披奉如来教(ひぶにょらいきょう)広度諸衆生(こうどしょしゅじょう)」と唱えます。お袈裟は解脱の服、つまり悟りの修行をする者が着けて、福徳をもたらす田んぼのような人の着けるものである。そして人々をも悟りの世界に導くように力を尽くすためのものですと謳っています。多くの犠牲者を悼み、ご遺族の安寧を願う老僧の想いは、まさにお袈裟の心です。そのような尊いお袈裟は私如きには身に余るものと十分承知。その上で、老僧の想いを被災地にお伝えすべく、そのお袈裟を着け、文字通り身を引き締めて、今後の復興に精進し、瓦礫の地を福田になさんと心新に致しました。
 それでは又、10月11日よりお耳にかかりましょう。

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