テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1066話】「往いて生まれる」 2017(平成29)年8月1日-10日

住職が語る法話を聴くことができます

 1066.jpgお元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1066話です。
 「往生際が悪い」とは、某国の防衛大臣の引き際を形容するようなときに使う言葉です。更に「往生」は「死ぬこと」をも意味します。そして往生の「往」は「往く」という意味ですが、死ぬのに「往って生まれる」とはどうしてでしょう。この世を去って往って極楽に生まれるという仏教の教えによります。広い意味では、死んですべてが終わるのではなく、死んで尚、何らかの形で命が続いて欲しいとの願いとも言えます。そして、「大往生」と言われた人なら、、一層その想いを強く抱かれることでしょう。
 7月18日日野原重明さんが105歳で亡くなりました。日野原さんはクリスチャンですが、その生涯を敢えて「大往生」と称えてもいいのではないでしょうか。聖路加国際病院名誉医院長として、100歳を過ぎても医師を続けていました。90歳の時に『生き方上手』を出版して、120万部のベストセラーになったり、新聞連載をするなど、著書は200冊を超えています。「新老人の会」を発足させ、自らそのモデルであるべく、毎日全力で豊かで実りある人生を目指していました。
 アメリカの哲学者レオ・パスカーリアが書いた『葉っぱのフレディ〜いのちの旅〜』という絵本があります。それが日野原さん89歳の時の企画・原案でミュージカルとなり、日本とアメリカで公演されました。春に生まれた葉っぱが、夏に木陰となって人々に憩いを与えます。秋は紅葉して目を楽しませ、冬には散ってしまうけど、散った葉っぱの栄養が、新しい葉っぱを生むという命の循環が主題となった内容です。
 フレディという名前の葉っぱが、仲良しのダニエルという名前の葉っぱに「私たちは冬になればみんな風に散ってしまうんだよ」と教えられます。フレディは怯えますが、ダニエルはこう続けます。「命あるものはいつかは死ぬんだ。それは葉っぱの引っ越しのようなもの。そして、少しでも人に喜んでもらえたら、生きてきた意味がある。僕たちも命の一部。死んだらどこに行くか分からないし、戻って来れないかもしれない。でも、命そのものは戻ってくるんだよ」。まさにフレディやダニエルという名前そのものの葉っぱは、春になっても戻らないでしょう。しかし、彼らの命に繋がる新しい葉っぱが、春には生まれるのです。
 日野原さんは100年以上に亘って、全身全霊を込めて、その言葉その行いを通じて、数えきれない老若男女に、ご自分の命を伝えてきました。それを何らかの形で受け継ぐ人が絶えないことでしょう。そこに日野原さんの命が生きていきます。まさに大往生と言われる所以です。それに引き替え、自分の国がどうなろうと、自分の保身のために、目先の繕いに汲々としている大臣を見て、一番往生したのは一般国民なのですが・・・。
 それでは又、8月11日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【1317話】
「18歳と81歳」
2024(令和6)年7月21日~31日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1317話です。 「年齢7掛け説」というのがあるそうです。健康な現代人の年齢は、3割若く数えても大丈夫だということです。60歳なら42歳、70歳なら49歳、80歳なら56歳という風にです。50代・60代の頃はさもありなんと思っていましたが、さすがに70歳を超えると、8掛け・9掛けが現実に即している気がします。 さて、ある方から「... [続きを読む]

【1316話】
「不二山」
2024(令和6)年7月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1316話です。 東京都国立市では、駅前から伸びる通りを富士見通りと称しています。晴れた日には富士山を望めるからです。2年前にこの通りにマンション建設の話が持ち上がりました。地元では景観をめぐって反発したものの、建築基準法上の問題はないということで着工、先月完成しました。しかし引き渡しまじかにな... [続きを読む]

【1315話】
「一心松」
2024(令和6)年7月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます 元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1315話です。 東日本大震災で大津波を目撃した人は、「松林の上から黒い煙が出ているように見えた」と言っていました。最大波12.2㍍ともいわれる津波が、わが山元町の沿岸部の松林を根こそぎ破壊しました。松は養分や水分がなくても育ち、塩害や風にも強いことから、防風林・防砂林として用いられてきました。し... [続きを読む]