テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1028話】「巡礼」 2016(平成28)年7月11日-20日

住職が語る法話を聴くことができます

1028.JPG お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1028話です。
 「三」という数字は面白いです。「石の上にも三年」とか「仏の顔も三度まで」といえば、「長い期間」や「たびたび」という多い数を意味します。逆に「三日天下」や「舌先三寸」では「短い期間」や「わずか」という少ない数の意味になります。「三度命拾いをした」という時の「三」は、当然「たびたび」の意味であり、「奇跡」という思いも込められているかもしれません。
 仙台市の櫻井史朗さんは、東日本大震災のとき、震源地に最も近い島・金華山にいました。山歩きの会の仲間と金華山の山登り終えて、午後3時発の鮎川行の船を待っているとき地震発生。待合室の天井崩壊寸前のところ危うく脱出。高台避難を目指している途中で大岩が崩落。高台から海を見ると、ふたつの津波が激突してせり上がり、50メートルもあろうかという巨大津波になって、高台めがけて襲って来ます。更に高い所に駆け上がり、辛うじて無事でした。三度命拾いをして、「生かされた命」を意識したと言います。
 その後、想像を絶する惨状の中、大半の行程を歩いて自宅に辿り着いたのは、6日後の3月17日でした。自宅は大規模半壊という状況。しかし、「生かされた命」を犠牲者の慰霊に捧げたいと決意し、毎月11日の月命日に被災地に向かい、祈り続けてきました。そして、震災1年後、当時小学4年の孫さんと、犠牲者の鎮魂と復興を祈る四国歩き遍路を果たしています。その背景には、「阪神・淡路大震災」後に、四国を遍路した体験がありました。その時出会った犠牲者の鎮魂を願う遺族の方から、遍路によって亡き人の供養もさることながら、自分自身の心の癒しにもなっていることを聞かされます。事実、孫さんと四国を歩いてそのことを実感します。
 櫻井さんは東日本大震災の被災地にも「祈りの場」を作り、四国巡礼のような「みちのく巡礼」を立ち上げようと、意を強くします。そこは犠牲者の鎮魂は元より、祈る人々の癒しにもなり、心の拠りどころにもなると信じてのことです。更に巡礼活動を、災害の記憶や教訓の「伝承」にもつなげ、防災意識の啓発にまで高めようというものです。
 こうして、一昨年1月、一般社団法人みちのく巡礼が設立されました。宮城・岩手・福島の被災地の慰霊に相応しい寺院等を中心に巡礼地を完成させる予定です。現在は宮城県の21寺院の札所が決まりました。震災から5年4カ月の今月11日に巡礼が開始されます。たまたまそのスタート札所が、徳本寺中浜墓地跡に建つ千年塔です。巡礼という意識をもって祈るなら、ひとりで祈っても、多くの方と一緒に歩いている気持ちになることでしょう。ある人にだけ想いを捧げたつもりが、これまで縁のなかった人にも、その想いは伝わっていくのが巡礼です。「巡」という字は、川と之繞(しんにゅう)から成り立って、川の流れが大地をめぐることを意味します。「川」は三筋の線で表されますが、この場合の「三」は当然多い数の意味でしょう。震災を忘れないためにも、逡巡せず巡礼にお出かけ下さい。
 ここでお知らせ致します。6月のカンボジア・エコー募金は、210回×3円で630円でした。ありがとうございました。
 それでは又、7月21日よりお耳にかかりましょう。

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