テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第767話】「恨まない羨まない」 2009(平成21)年4月11日-20日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第767話です。
 「腕を磨く」「腕が上がる」という言葉があるように、「腕」には「能力・技術」をあらわす意が含まれることがあります。そして、朝起きて、歯を磨く・顔を洗う・ご飯を食べる、すべてにおいて腕があればこそです。
  今から28年前の昭和56年私は、「典子は今」という映画を見てショックを受け、同時に忘れられない感動を覚えました。典子さんは、両腕を失ったサリドマイド児として生まれました。それでも彼女は私たちが手ですることを、すべて足を使ってこなせるのです。洗面・食事・勉強などにおいて、普通の人と何ら変わらず、ただ手を足に替えて、日常生活を営むことができました。
 とはいえ、普通の人なら味わうことのないような幾多の困難に遭遇します。そのたび、持ち前の前向きな姿勢と努力によって克服し、普通に小・中・高校と進学し卒業します。そして26倍の難関を突破して熊本市役所に就職します。ここまでのことを描いた映画が当時大ヒットして、典子さんは一躍時の人になりました。その後、結婚をし、二人の子どもにも恵まれています。
 その典子さんが3年前熊本市役所を退職し、「たまたま障害をもって生まれてきたが、貴重な体験ができたこともある。そのことを伝えることで多くの人が元気になるなら」と言って講演活動を始めました。先日、彼女の講演をお聴きし、直接お会いする機会がありました。その心意気に接し、改めて感動しました。常に心がけていることは「恨(うら)まない 羨(うらや)まない」だそうです。人から見たら、腕がなく生まれたことを恨んだり、腕があればと羨んだりしても不思議ではないかもしれません。しかし、彼女は「そんなことをしても、前に進むことはできない。ないものはない」と言い切ってしまうのです。
 私たちは過ぎた日を悔やんだり、明日に不安を感じたりして、今をおろそかにしてしまうことがあります。典子さんには腕はなくとも、立派な能力があります。それは「恨まない 羨まない」で、今という時間を、今の自分を精いっぱい生きるという揺るぎない信念を持ち続けていられることです。講演会場の舞台上で、彼女は大きな紙に「今を生きる」と足で筆を使い堂々と墨書しました。その力強い筆勢を見てある人がいいました。「私などとても、典子さんの足元にも及びません」と。
ここでご報告いたします。3月のカンボジア・エコー募金は、257回×3円で771円でした。ありがとうございました。それでは又、4月21日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【1324話】
「少年の心
達磨の心」
2024(令和6)年10月1日~10日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1324話です。 心理学者の児玉光雄は、大リーグの大谷選手を「少年の心を持つスーパーアスリート」と表現しています。少年時代から野球を楽しむ心を忘れず、自発的に物事に取り込める姿勢が、想像を超えた活躍に繋がっているというのです。 大谷選手は50-50つまり、50本塁打50盗塁という夢のような記録を、軽々と超えてしまいました。アメリ... [続きを読む]

【1323話】
「土俵に彼岸を見た」
2024(令和6)年9月21日~30日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1323話です。 大相撲秋場所6日目結びの一番。大関豊昇龍が平幕王鵬にすくい投げで敗れました。余程悔しかったのでしょう。土俵を拳(こぶし)で突き、きちんと礼をすることなく、花道に向かったところ、審判長に呼び止められ、再び土俵に上がります。そこでも礼が合わず再びやり直しをさせられました。洒落ではあ... [続きを読む]

【1322話】
「醍醐味は元気でゆっくり」
2024(令和6)年9月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1322話です。 牛乳の精製過程の5つの味のうち、最後に出てくる最上の味を醍醐味と言います。仏教ではそれを最高の境地の涅槃にたとえます。そして醍醐の原語は「サルピル・マンダ」で、あのカルピスの名称の元であると言われます。そのカルピスが好物で、116歳の今も元気で世界最高齢に認定されたのは、兵庫県... [続きを読む]