テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第888話】「金メダル」 2012(平成24)年8月21日-31日

888.JPG お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第888話です。
 「畳の目に躓くことでもなければ、金メダルは確実」。こう評された山下泰裕選手は柔道無差別級で、ロサンゼルスオリンピックに出場。28年前ことです。その山下選手、初戦は順調に突破したものの、2回戦で軸足の右足が肉離れを起こすというアクシデントに見舞われます。絶体絶命の状態です。それでも右足を引き摺りながら、執念で金メダルを獲得しました。公式戦7年半も無敗を続け、203連勝のまま、28歳で現役を引退しました。いまもって、「史上最強の柔道家」と言われています。その彼も、オリンピックは一度しか出られませんでした。
 今回のロンドンオリンピックで日本選手のメダル獲得数は、38個で過去最多です。とりわけ女子選手の活躍が光ります。7個の金メダルのうち、半数以上の4個が女子選手です。中でも、女子レスリングの伊調馨選手と吉田沙保里選手はオリンピック3連覇という偉業を成し遂げました。4年に一度のオリンピックに出るだけでも至難なことです。一度頂点を極めた者が、二度三度とまた頂点に挑むのは、初めてメダルを取るより何倍もの努力が必要であり、プレッシャーも相当なものでしょう。
 オリンピックの舞台に立てたとして、勝負には様々なあやがあり、強いものが必ずしも勝ち進めるとも限りません。究極のところになった時に、力以上にその人の強い意志が働かなければ、金メダルは逃げていくこともあります。なぜ私は今ここに立っているのか。負けるためなら立たなくてもいい。立っている限りは勝つんだ。その気持を勝利の女神が読みとってくれた時、微笑むのでしょう。
 実は、伊調選手はロンドン入りした翌日に、練習で左足首の靭帯部分断裂というけがをしていたそうです。「よりによって、今か」そう思ったものの、欠場は考えませんでした。炎症止めと痛み止めの注射を打ち、テーピングで足首を固めて、試合に臨んでいたのでした。28年前の山下選手と同じような状況です。そして、何という巡り合わせか、その年の6月に伊調選手は生まれているのです。時は流れても、勝って当たり前、金メダルに一番近い存在という立場は同じだったことでしょう。万全の状態でないことは明らかです。もはやそこをカバーするのは、目の前にあることから逃げずに向かっていくという信念しかありません。それは迷いを吹っ切ったある種の悟りの状態とも言えます。
 「迷えば寂乱を生じ、悟れば好悪無し」という禅語があります。私たちはいつも迷いの中にいます。練習し尽して、絶対大丈夫と思っても不安は残ります。更に万全の状態でなければ、迷いは募ります。伊調選手は「金メダルを目指ざすのに、何を迷っているのか。金メダルを手にしたとき、好いも悪いもなく、これまでの汗も涙も何もかも今日までのためにあったと思いたい」と、その一念を貫いたのでしょう。まさに悟れば好悪無し、です。
 それでは又、9月1日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【第1136話】
「迷う紫陽花」
2019(令和元)年7月11日~20日

news image

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1136話です。 梅雨の真っ只中ですが、インドでも同じように夏の雨季の時期があって、その間僧侶は外出をすると、草木や虫などを踏み殺すということで、一カ所に留まって修行しました。それを安居(あんご)といいます。安心の「安」と居住の「居」と書きます。現在でも我々が道場に籠って修行することを、安居と言っています。 さて、どう... [続きを読む]

【第1135話】
「毛がない本尊」
2019(令和元)年7月1日~10日

news image

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1135話です。 東日本大震災で、本堂等すべてが流された徳泉寺の本尊・お釈迦さまは、奇跡的に無事発見されました。幸いなことに、徳泉寺の本寺である徳本寺の本堂で仮安置されることになりました。そして奇跡の本尊「一心本尊」さまが、全国デビューしたのは、平成25年12月31日のこと。NHKの... [続きを読む]

【第1134話】
「虹梁」
2019(令和元)年6月21日-30日

news image

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1134話です。 「犬走り」や「鴨居」「蝶つがい」など、生き物の名前を入れて、建物を造っている日本建築にゆかしさを感じます。更に、寺院建築には、虹の梁と書いて「虹梁」と呼ばれる部分があります。柱と柱の間に渡される梁の一種で、緩やかに湾曲した形になっています。まるで、虹が架かっているかのよう... [続きを読む]