テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第917話】「強い背中」 2013(平成25)年6月11日-20日

住職が語る法話を聴くことができます

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 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第917話です。
 お釈迦さまはインドの人と思われていますが、実際はヒマラヤ山麓の国ネパールのカピラヴァストゥの釈迦族の王子さまでした。そこは現在のインドの国境に近いところです。そして29歳の時に出家し、悟りを開かれた後、インドの各地を巡る説法の旅を続けられました。晩年、最後の説法を生まれ故郷でなさろうとしたのでしょうか。カピラヴァストゥの方角に向かっている途中の、クシナガラでお亡くなりになられました。80歳でした。
 お釈迦さまが亡くなって、約2500年が経ちました。世間の移り変わりようは如何ばかりでしょう。その中でおそらくヒマラヤの山々は変わらず、特に世界最高峰のエベレストは8848メートルを誇ります。人類が自らの足で到達できる世界の最高点です。そこに5月23日80歳の三浦雄一郎さんが登頂し、エベレストでの最高齢登頂記録を4歳更新しました。三浦さんはこれまで、70歳と75歳の時にも登頂していますし、43年前には8千メートル付近からスキー滑降も試みているという実績がありました。それにしても80歳です。
 お釈迦さまは80歳で亡くなられたとき、果たしてヒマラヤ山麓を仰ぎ見ることはできたのでしょうか。それなのに、三浦さんはお釈迦さまが亡くなった齢で、世界の頂点に足跡を印すことができたのです。登山に対する周到な準備と万全なバックアップ態勢が功を奏したのでしょう。何より本人の日頃の鍛練と、常に高い目標をもつことにより、わくわく生きることができるという信念があったればこその偉業なのでしょう。
 人類のエベレスト登頂の歴史は、イギリスのエドモント・ヒラリーの初登頂以来、まだ60年です。8千メートルを超える高所では、酸素が平地の3分の1になるそうです。少しでも天候が崩れれば、命にかかわることもあります。お釈迦さまの時代は勿論のこと、少し前までは誰もエベレストに登ろうなどとは思わなかったはずです。登山の技術も装備もなければ、それは当たり前のことです。現代においても、普通の80歳の人なら無謀といわれるだけです。それ以前に、新しいことに挑戦する80歳はそう多くはないでしょう。
 「軽い荷物にしてほしいと願ってはいけない。強い背中にしてほしいと願わなくてはならない」アメリカのルーズベルト大統領の言葉です。年老いてくれば、背中も丸くなり、荷物を軽くするどころか、何も背負いたくないと思っても当然です。お釈迦さまは最期の説法で「精進」ということを説いておられます。それは自分も仏になるという願いを持ち続け、修行に勤めなさいということです。そして仏道修行に年齢はありません。いつまでも背筋をぴんと伸ばして、エベレストより高い志を抱くことで、強い背中が培われるはずです。三浦さんの背中のように・・・。
 ここでご報告致します。5月のカンボジア・エコー募金は、92回×3円で276円でした。ありがとうございました。
 それでは又、6月21日よりお耳にかかりましょう。

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