テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第978話】「ある親子」 2015(平成27)年2月21日-28日

住職が語る法話を聴くことができます

978_25.JPG お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第978話です。
 火葬することを「荼毘に付す」と言いますが、インドの古代言語のパーリ語で「燃やす・火葬する」という意味のジャーピータを音訳したものです。古代インドでは火葬が一般的で、お釈迦さまも荼毘に付されました。以来、荼毘は仏教徒の正式な葬法となりました。葬儀の時、導師が法炬(たいまつ)を回す作法をするのもそのためです。
 今から30年以上前のこと、檀家のAさんは当時4歳で父親を亡くしました。父親の死をよく理解できないまま、母親に手を引かれて火葬場に行きました。火葬ということが分かりません。どうして燃やされてしまうのかと思うばかりでした。そして、大人たちが控室でお茶などを飲んでいる間、ひとり火葬場の炉の前に立ち尽くします。「お父さん、燃えないでくれ」と泣きながら祈ったと言います。
 それからは、母親とふたりっきりで生きていかなければなりませんでした。唯一の男手であるAさんは、小学校2・3年の頃から田畑に出て、母親の手伝いをするようになります。耕運機を操作することもできました。小さい時の苦労を思えば、今はたいていのことは耐えられますと言います。
 そんなAさんにも晴れがましいことがありました。母親はたいそう民謡が上手でした。あるとき全国大会に出場できることになり、東京まで連れて行ってもらいました。そして自分の目の前で歌った母親が優勝したのです。地元の公会堂で祝賀会も開かれ、そこにも同席させられ、記念の写真にも納まりました。
 しかし、母親の晩年は長いこと病床にありました。懸命に在宅で介護をしたものの、最後は入院を余儀なくされました。Aさんが付き添っている時はいいのですが、ベットを離れると容態が変わります。自分に対する想いの強さを知らされました。あるとき母親に尋ねます。「どんな葬儀にして欲しい。盛大にしてやろうか」。それに対して、母親は少し頷いたような気がしたといいます。病床にある人に、葬儀の話をできるというは、普通は考えられません。この子がいたからこそと思う親と、この親のおかげだと思う子の呼吸がぴったり合った会話であればこそです。
 先日とうとう母親の葬儀の日を迎えました。Aさんは言います。「私にとって母親は父親だったんです」。父親の火葬の時、燃えないでくれと祈ったことが通じていたような気がします。父親の五体は亡くなってしまいましたが、残してゆく妻と子に「父親」としての想いを確かに伝えていたのです。Aさんの会葬御礼の「遠き日を振り返れば、農作業をするかたわら家事をこなし、家庭を守ってきた頑張り屋の母がまぶたに浮かびます」という言葉が、母親には勿論、父親にも届いていることでしょう。燃え尽きることのない親への想いです。
 それでは又、3月1日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【1324話】
「少年の心
達磨の心」
2024(令和6)年10月1日~10日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1324話です。 心理学者の児玉光雄は、大リーグの大谷選手を「少年の心を持つスーパーアスリート」と表現しています。少年時代から野球を楽しむ心を忘れず、自発的に物事に取り込める姿勢が、想像を超えた活躍に繋がっているというのです。 大谷選手は50-50つまり、50本塁打50盗塁という夢のような記録を、軽々と超えてしまいました。アメリ... [続きを読む]

【1323話】
「土俵に彼岸を見た」
2024(令和6)年9月21日~30日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1323話です。 大相撲秋場所6日目結びの一番。大関豊昇龍が平幕王鵬にすくい投げで敗れました。余程悔しかったのでしょう。土俵を拳(こぶし)で突き、きちんと礼をすることなく、花道に向かったところ、審判長に呼び止められ、再び土俵に上がります。そこでも礼が合わず再びやり直しをさせられました。洒落ではあ... [続きを読む]

【1322話】
「醍醐味は元気でゆっくり」
2024(令和6)年9月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1322話です。 牛乳の精製過程の5つの味のうち、最後に出てくる最上の味を醍醐味と言います。仏教ではそれを最高の境地の涅槃にたとえます。そして醍醐の原語は「サルピル・マンダ」で、あのカルピスの名称の元であると言われます。そのカルピスが好物で、116歳の今も元気で世界最高齢に認定されたのは、兵庫県... [続きを読む]