テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1198話】「唯我独尊」 2021(令和3)年4月1日~10日


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1198話です。

 仏教ではお釈迦さまにゆかりのある3つの聖なる木「三大聖木」というのがあります。お釈迦さまがお生まれになった時の無憂樹、お悟りを開かれた時の菩提樹、そしてお亡くなりになられた時の沙羅双樹です。

 お釈迦さまの母マーヤ夫人(ぶにん)は、出産のための里帰りの途中で、ルンビニの花園に立ち寄りました。そして花の咲く枝に右手をかけた途端に産気づき、お釈迦さまをお産みになられました。紀元前463年の4月8日と伝えられています。その枝は、マーヤ夫人が何の心配もなく安らかに出産したことから、憂いの無い樹「無憂樹」と名付けられました。実際はアショーカというマメ科の植物で、インドでは出産・誕生・結婚に関わる「幸福の木」と言われます。

 大いなる祝福を受けたお釈迦さまは、生まれてすぐ「天上天下唯我独尊」と叫ばれました。直訳すれば、この世で私だけが一番尊いという事になります。まさかと思うかもしれませんが、ちょっと想像してみて下さい。確かにどんな赤ちゃんでも、生まれてすぐ口を利くわけはありません。ただ「オギャー」と泣くだけです。その時まわりはどうなりますか。すべての手を休めて、赤ちゃんにくぎ付けになります。泣き止むようにと、あらゆる手を尽くします。そこは赤ちゃんひとりの天下です。赤ちゃんより尊い存在はいないのです。

 そう思えばお釈迦さまの「天上天下唯我独尊」という言葉も何となく納得できませんか。何となくではなく、はっきり理解しましょう。「唯我独尊」は「唯だ私だけが尊い」という自惚れではなく、「唯だ、我、独りとして尊し」と理解すべきでしょう。何も持たず裸でこの世に生を受けた命そのものが尊いという事です。誰かと比べてとか、何かの条件によって優劣があるのではなく、命そのままが尊いのです。それはお釈迦さまも私たち一人ひとりも、みな同じく尊い存在なのですよというお諭しです。

 さて、時恰も世界中で新型コロナウイルス感染が続いています。その感染者数は1億2673万人を超え、死者は277万人に及びます。コロナ以前は漠然と地球上には何十億という人類が存在していると思っていました。しかし、一人ひとりが命ある存在だという意識には至っていませんでした。ところが、世界中のコロナに感染した人の数字を見るにつけ、国や人種を超え老若男女の区別もなく、その命にコロナが侵略していることを実感させられます。図らずもコロナという脅威は、世界中の一人ひとりの命の尊さを浮かびあがらせることになりました。

 お釈迦さまの唯我独尊を、尊い自分の命を守るのは勿論のこと、他の命も等しく尊いのだから、同じようにいたわりましょうと受けとめ、今の私たちは感染防止に努めるべきです。アショーカ(アッそうか)!一人ひとりの節度ある心がまえこそが、コロナに対する憂い無き無憂樹なのだと納得しましょう。

 それでは又、4月11日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【第1269話】
「博士の理想郷」
2023(令和5)年3月21日~31日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1269話です。 その老人の肩には無数の傷跡がありました。「どうしたの」と家の者が聞くと、「自分で作った赤痢ワクチンを注射して、反応や経過を観察した、いわば自分を材料にした人体実験だ」というのです。その老人こそ、赤痢菌発見者として世界的に著名な志賀潔博士です。 博士の生まれは仙台ですが、昭和20年に我が山元町磯浜に家族と共に移り... [続きを読む]

【第1268話】
「嵩上げ復興」
2023(令和5)年3月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1268話です。 東日本大震災翌日の朝早く、避難所になっている坂元中学校に行きました。そこは少し高台になっていて、町の海側の方が見渡せる位置にあります。何と松林もなければ、民家も一軒も残らず、どす黒い大地と化していました。道路も判別できず、線路も流されるというありさまです。ただ、坂元駅の高架橋だ... [続きを読む]

【第1267話】
「希望に勝る意志」
2023(令和5)年3月1日~10日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1267話です。 先日、東日本大震災に関して、地元テレビ局のアナウンサーから取材を受けました。終わってから逆取材をして、彼女に震災の時のことを聞いてみました。当時彼女は仙台市の中学3年生とのこと。震災の翌日に卒業式を控えていたのですが、当然行われませんでした。「私、中学を卒業していないんです」と言うのでした。 あの時中学生だった... [続きを読む]