テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第832話】「定点観測」 2011(平成23)年2月1日-10日

住職が語る法話を聴くことができます

20110201.jpg お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第832話です。
 毎朝6時に梵鐘を撞きます。おかげさまで一年中同じ時間に、同じ場所の景色を見ることができます。ちょっとした定点観測です。花が蕾んだ、咲いたと、季節の訪れに敏感になります。そんな毎日の定点観測もあれば、年に一回の定点観測もあります。それはお正月の16日です。松が明けたということで、ほとんどの檀家さんが、お墓参りに訪れ、住職のところにも年始の挨拶にお出で下さるときです。
 そして、中には毎年判で押したように、同じ時間帯に訪れ、決まったようにお茶を飲んで行かれる方もいらっしゃいます。そういう方はきっと、毎年、年の初めに何をなさるか決めているのではないでしょうか。これをしないと、一年が始まらないとか、やることをやらないと、どうも落ち着かないなどという風に――。住職としても、そういう方のお顔を拝見すると、新年を迎えたという実感が湧きます。いわば「徳本寺のお正月の顔」でしょうか。
 しかし、今年はあるおじいさんをお見かけしないと思っていたら、そこのお嫁さんが来られ、おじいさんは体調を崩し入院しているとか。また、別のいつも来る方が見えないと気になっていたら、そうだあの方は昨年亡くなったんだということを思い出しました。毎年同じように正月を迎え、同じような方が年始のご挨拶に見えるような気がしていますが、決してそうとは限らないこともあるわけです。年に一度の定点観測をしていると、「年年歳歳花相似 歳歳年年人不同(ねんねんさいさいはなあいにたり さいさいねんねんひとおなじからず)」ということをほんとうに実感します。
 そんな中で、「お正月の顔」と目しているお二人の方が、16日をだいぶ過ぎてからお見えになりました。お二人ともそこそこのお歳の男性です。一人は腰の骨を痛めてまだ完治していない状態です。階段の上り下りもままならないほどです。もう一人は昨年足を骨折したそうで、杖をついていました。お二人とも傍目には、とても外に出かけられる状態ではありません。それでも、どんな状態であれ、お正月にはお寺に年始の挨拶に行かないわけにはいかないという頑なな思いで、出かけてこられたようです。
 檀家さんにとっても、お寺への年始の挨拶が、年に一度の定点観測となるのでしょうか。そして、毎朝の梵鐘を聞いて、毎日の定点観測をしている人も、多いことでしょう。もしかしたら諸行無常の響きを感じている人もいるかもしれませんが、私は「人生に定年はないよ」という思いで、毎朝梵鐘を撞いています。みなさんはそれを聞いて、「死ぬまで現役」という思いで、我が人生の「定年観測」をしていただければ何よりです。
 それでは又、2月11日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【第1288話】
「手拭いと日本刀」
2023(令和5)年10月1日~10日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1288話です。 その昔、知り合いのお宅に泊めていただいた時のこと。風呂上がりに濡れた手拭いの水を切るつもりで、バサッバサッと振っていたら、当主に叱られました。その音は刀で首を切るときの音に似ているので、家ではしないよう代々教えられてきたというのです。なるほどと反省しました。 その後、無著成恭さんの講演を聴く機会がありました。無... [続きを読む]

【第1287話】
「無縁墓」
2023(令和5)年9月21日~30日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1287話です。 平成19年頃にヒットした「千の風になって」は、「私のお墓の前で泣かないで下さい そこに私はいません 死んでなんかいません ・・」と歌っています。まるでお墓には何もないかのようです。しかし歌の作者新井満さんは言います。「お墓は亡き人の『現住所』で、そこからどこへでも出かけるでしょ... [続きを読む]

【第1286話】
「夜霧の渡し」
2023(令和5)年9月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1286話です。 「矢切の渡し」は昭和歌謡の代表曲です。「つれて逃げてよ・・」と始まる恋の逃避行の歌で、柴又から対岸の矢切に向かう渡し船が舞台です。矢切の渡しは江戸川で唯一現存するものですが、各地にも現役の渡し船は残っています。考えてみれば、人生も渡し船に乗っているようなものです。 人生の川の... [続きを読む]