テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1011話】「人を憂う」 2016(平成28)年1月21日-31日

住職が語る法話を聴くことができます

1011.JPG お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1011話です。
 「優しい」という漢字は、「人偏に憂う」と書きます。辞書によれば、喪に服して悲しむ人の姿が「優」であり、またはその所作をまねする者とあり、「俳優」の「優」がそれにあたるそうです。悲しみを知った者が、ほんとうの「優しさ」を秘めているということでしょうか。
 先日70代のMさんという男性が亡くなった通夜の席で、その息子さんが生前の父親について語ってくれました。「東日本大震災の時、町はとんでもない惨状でしたが、私の家は直接の被害がありませんでした。震災翌日、父の運転する軽トラックで、被災現場に行きました。あるところにご遺体が横たわっていました。父はすぐ車を降り、自分の服をご遺体にかけてあげたのです。どうしてそんなことをするのと聞くと、だって寒くて可哀相じゃないかと言ったのです」
 あの惨状を見て、一人二人のご遺体で済まないことは明らかでしょう。もう死んでしまった人なんだから、そこまでしなくてもいいのにと周りの人は思ったかもしれません。しかし、Mさんはこの世のものとは思えない光景が広がる中で、一人の悲しみをも見過ごすことができなかったのです。
 その話を聞いて、震災の前の年のMさんのことを思い出しました。平成22年10月にMさんは、弟さんを病気で亡くしました。まだ60歳という若さでした。その時、火葬場で弟さんの棺にすがらんばかりにして、大きな声で名前を呼んだのです。そして言いました。「頑張れよ。もう病気になるなよ。元気でな」。あまりに早い旅立ちの無念さを十分に承知しながら、せめてもう一度元気で兄弟の契りを交わしたい、そう切に願っての叫びだったのでしょう。
 「生きておわしますが如く」という言い方があります。亡くなっても、生きている時と同じように接するということです。亡くなって変わり果てた姿に対して、何を今さらと思うこともあるでしょう。この世にいない者にいつまでも囚われたくないという人もいるかもしれません。しかし、人はそこまで即物的に割り切った生き方をできるものでしょうか。なぜなら、生きている限り悲しみに出会わないわけにはいかないからです。人は悲しみに出会い、それを我がことと受けとめられたとき、優しさという種が心に芽生えます。
 Mさんが弟さんの死という悲しみをのり越え、震災で犠牲になった方に「生きておわしますが如く」に接した姿こそ、ほんとうの優しさであると教えられました。今は亡きMさんに「生きておわしますが如く」のご供養を申し上げ、ご冥福をお祈り致します。
 ここでお知らせ致します。テレホン法話の千話を記念して、テレホン法話集『千話一話―3.11その先へ』(定価千円)が発売されました。千人の人が描かれた錦絵のような表紙が評判です。書店もしくは徳本寺でお求めください。徳本寺にはこちらからお申込み ください。
 それでは又、2月1日よりお耳にかかりましょう。

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