テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1260話】「剃髪の恩返し」 2022(令和4)年12月21日~31日


お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1260話です。

 私たち禅僧は、4と9のつく日、つまり4日・9日・14日・19日・24日・29日と月6回自分で頭を剃ります。剃ったときはつるつるでも、5日もすれば結構伸びてきます。伸びた髪は煩悩にも譬えられます。禅僧といえども髪が伸びるように、煩悩が消えることはありません。そのことを自覚して、精進するように髪を剃ります。

 その象徴的な事は、俗世間から出家して僧になるときの第一関門である、剃髪の式です。私は大学を卒業して、僧として本山に修行に行くことになりました。本来は師匠に剃刀を入れてもらって、剃髪をします。しかし若気の至りで、普通に長い髪でしたので、髪を剃る前に、髪を短くしなければなりません。そこで、いつも通っていた斎藤床屋さんに行って、訳を話し髪を落として剃ってくださいとお願いしました。さすがに斎藤さんは驚き、「ほんとうにいいんですか」と、2度聞き返されました。そう言われると、出家の決心が揺らぎましたが、何とか踏みとどまって、人生初のつるつる頭になりました。私にとって斎藤さんは、出家の時に最初の剃刀を入れていただいたのですから、師匠と同じです。

 実は先日その斎藤さんが88歳で亡くなられました。通夜の席で出家の剃髪の話を披露しました。家族の方は初めて聞く話で、びっくりしていましたが、「父は和尚さんと素晴らしいご縁があったんですね」と、感謝されました。勿論、感謝するのは私の方こそです。おかげさまで、斎藤さんの最初の剃刀以来、何とか僧としての姿を保ち、髪を伸ばすことなく、今日まで勤めてきました。もはや斎藤さんのお世話になることはありませんでした。

 そして、今度は私が葬儀において、斎藤さんの頭を剃髪し、ご恩返しをすることができました。葬儀は仏弟子となる式です。儀式とはいえ、出家していただくのです。そのため、式の最初に剃髪を行います。実際に剃刀を持つことはありませんが、次のように唱えて、剃髪の意義を伝える作法を行います。「流転三界中(るてんさんがいちゅう) 恩愛不能断(おんないふのうだん) 棄恩入無為(きおんにゅうむい) 真実報恩者(しんじつほうおんしゃ)」つまり「物と欲にまみれた世界をさ迷う者は、決して煩悩を断つことができない。煩悩を捨てて、計らいのない出家の道を歩むのが、仏の恩に報いる者である」ということです。斎藤さんの仏の道安らかならんことをお念じ申し上げます。

 さて、間もなく除夜の鐘です。一年間の煩悩を清めて新しい年を迎えましょうと願って、鐘は響きます。良いこともあったでしょうが、醜い煩悩を含め、いやなこともありました。作家の宇野千代さんは言いました。「『いやなことは』大急ぎで忘れる」。年内中に実行してください。そして来年も4と9のつく日は山ほどあります。剃髪をせずとも、煩悩を遠ざける日に致しましょう。

 それでは又、新年1月1日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【1308話】
「花咲か爺さん」
2024(令和6)年4月21日~30日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1308話です。 枯れ木に花を咲かせたのは「花咲か爺さん」、被災地の荒地に花を咲かせたのは「NPO法人三島緑の会」です。静岡県三島市の団体で、東日本大震災後の2013年から日本沙漠緑化実践協会の植樹活動に参加し、毎年山元町に桜を植樹して下さっています。一昨年はコロナ禍のためお出でいただけませんでしたが、苗木を送って下さいました。縁... [続きを読む]

【1307話】
「揺らがず大遠忌」
2024(令和6)年4月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1307話です。 たとえばですが、「正月の元旦に地震の避難訓練をします」と言われて、参加しますか?正月早々とんでもないと、誰でも思います。しかし無常なる自然は、正月とか人間の都合に忖度しません。能登半島では元旦にとんでもない地震が起きたのです。 実は能登半島は曹洞宗にとっては聖地です。曹洞宗に... [続きを読む]

【1306話】
「シッダールタ」
2024(令和6)年4月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1306話です。 「文殊丸」「行生」という2人の名前で、どなたかわかりますか。ヒントはどちらも曹洞宗に関わる方です。文殊丸は大本山永平寺を開かれた道元禅師、行生は大本山總持寺を開かれた瑩山禅師の幼名です。昔は幼い時に仮に名付ける名前や元服以前の名前を持つことがあったようです。 さて、4月8日は... [続きを読む]