テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1100話】「サムライのパス」 2018(平成30)年7月11日-20日

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1100.JPG お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1100話です。
 「ルールの中で考えた戦略で、1次リーグを突破したことを素直に喜びたい」と菅官房長官は、記者会見で述べました。サッカーのワールドカップロシア大会で、日本が決勝トーナメント進出を決めた試合でのことです。法律違反が認められなければ、嘘をつこうが公文書を改ざんしようが、我が身安泰であれば構わないという為政者のひとりとしては、極めて理解できる試合だったのでしょう。
 その試合とは、日本対ポーランド戦。日本は0対1で敗色濃厚となるや、最後の10分間はボールを保持しても、前に進まず自軍でパス回しに終始しました。敗戦は承知の上で、これ以上失点を重ねたくなかったからです。決勝トーナメント進出を争っていたセネガルも敗れたため、勝ち点や得失点差で並びました。しかし、警告や退場を換算する「フェアプレイポイント」で上回っているため、負けてもいいから、これ以上傷口を広げない作戦に出たのです。
 当然国内外から批判が噴出しました。「恥知らず」「フェアプレイに反する」などです。しかし、皮肉にも、そのフェアプレイポイントのおかげで、セネガルを抑えて、決勝トーメントに進出しました。日本の西野監督は、自らも不本意であったとして、「勝てばいいとか、結果がいいだけでもない」と、選手にも謝罪しました。サッカーは両チームが、ひたすらにボールを蹴り、ゴールを目指すゲームです。自分の身を守るために時間を稼ぐだけでは、相手チームに失礼ですし、今回の場合、世界に悪い印象を与えました。
 それを、日本では「成熟した戦略」だったなどと評価する向きもあるようですが、「サムライジャパン」の名が泣きます。現代において、「サムライ」という称号を与えたのは、日本人としての美学に期待するからでしょう。「サムライ」には、恥を知り、気骨があり、並の人ではできないことをやってのける人というイメージが浮かびます。美学だけでは、世界レベルの戦いはできない。ある種のずる賢さを身につけ、成熟しなければいけないと言われればそれまでです。
 あの試合を見て、「結果オーライ」とはいえ、どこかもやもやした思いを抱いた人もいたはずです。まるで今の国会を見る思いです。成熟した政治家の答弁のように聞えても、結局は誰も真実は答えていないのです。不本意と思いながら時間稼ぎをしているのです。国会や世界のグラウンドで、こんなものばかり見せられたら、あの程度は許されるんだと、日本中が歪んだ心を持たないかと心配になります。それでも国会はともかく、サムライのサッカーの名誉のためにいいます。決勝トーナメントで、ベルギーに2点差を逆転され敗れました。しかし、最後まで戦い抜いた姿に、誰もが称賛を惜しみませんでした。やはりサムライにふさわしくないパスは、最初からパスした方が良かったのではないでしょうか。
 ここでお知らせ致します。6月のカンボジア・エコー募金は、183回×3円で549円でした。ありがとうございました。
 それでは又、7月21日よりお耳にかかりましょう。

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