テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第840話】「涅槃に流れて」 2011(平成23)年4月21日-30日

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 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第840話です。
 それぞれの3月11日午後2時46分があったはずです。私は徳泉寺という寺の住職も兼務しております。その日はそこで檀家総会が、午後1時30分から本堂にて開かれました。月遅れの涅槃会を兼ねて、お釈迦さまが亡くなった時の様子を描いた涅槃図を掲げ、みんなで手を合わせてから会議を始め、2時30分過ぎには終了。一般檀信徒の方は家路に向かいました。役員さん方と残って後片づけをしている最中に、激震に襲われました。
 外に出ると墓石がいくつも倒れて、近くの家の屋根瓦が落ちているのが目に入りました。車のラジオから6メートルの津波が来るとの報道。その寺は海岸から僅か数百メートルのところにあります。途中になっていた後片づけなどをしている場合ではないという緊迫感はありました。でも掲げていた涅槃図をそのままにできないと思い本堂に戻り、外して桐箱に収めました。急ぎ徳本寺に帰りました。ほどなく想像を絶するような大津波が町を襲いました。
 幸い徳本寺は高いところにあるので難を逃れました。しかし、海のそばの徳泉寺は本堂も庫裡もお墓もすっかり流されて跡形もありません。周りの檀家さんの家屋もほとんど残っていません。松林もなく、すぐそこまで海が迫っています。あたりは砂浜になっています。頭上に広がる青空が恨めしいほどですが、涙も出ませんでした。あまりにもきれいさっぱりなくなって、喜怒哀楽を表わすことができなくなっていました。でも、気になったのは涅槃図です。
 その涅槃図は縦2,7メートル、横1,4メートルという大きな掛け軸です。仏画の修行をしている東京のNさんが精魂込めて描かれ、どこかのお寺に奉納して、みなさんに拝んでいただきたいと願われていました。縁あって平成20年に徳泉寺に奉納されたものです。以来毎年3月に月遅れの涅槃会に本堂に掲げて、檀家さんと手を合わせてきました。その涅槃図も流されたのです。それはお金を出せばまた手に入るというものではありません。この世にたった一つの、願われて徳泉寺に奉納されたものです。
 お寺がある限り百年も二百年もみなさんに拝まれたはずだったのに、僅か3年間で大津波に呑み込まれてしましました。Nさんにはたいへん申し訳なく、お詫びの手紙を認めました。するとNさんは事情を推し量って電話を下さいました。「私の絵のことは一切気にしないで下さい。あの絵は十分に役目を果たしたはずです。犠牲になられた方の命に較べたら、絵には価値などないに等しいものです。ただ涅槃とは死をも意味します。多くの犠牲者と一緒に流れてゆく運命にあったのかもしれません。住職さんはじめ更に多くの方の身代わりになったとも思っています。願わくは、あの涅槃図が犠牲となられた方に寄り添い、その霊を慰めてくれたら本望です」。ご自分の命に等しいはずの涅槃図が流されたことに対して、澄み渡った青空のように微塵のこだわりもないNさんのお声を聞いた時、私は今回の震災で初めて涙が流れました。そして50名を超える徳泉寺の檀家さんの犠牲者に対して、手を合わせました。
それでは又、5月1日よりお耳にかかりましょう。

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