テレホン法話
~3分間心のティータイム~

第756話「未曾有(みぞう)のこと」 (2008.12.21-12.31)

CA9CIWYY_50.jpg 村の子どもの挨拶
年末になって、今年不安に思うことのひとつに、「未曾有(みぞゆう..)総理大臣」などと言われて、一国の総理大臣が漢字を読み間違えたことだけで、後世に名を残すのではないだろうかということがあります。勿論、総理大臣ともあろう方が、漢字を読めない知らないというのではなく、たまたま、独特の読み方を勘違いしただけなのでしょう。
 それはともかく、世界では文盲(もんもう)—「ぶんもう」ではありませんよ、総理!—といわれる文字の読み書きができない人は、たくさんいます。たとえば、12月8日に徳本寺で小学校を寄贈したカンボジアのドップ・トノット村の人々です。人口千人に満たない集落で、そのうち14歳以下の子どもは約半数を占めます。多くの子どもは基礎教育を受けることができずにおりました。成人でも文字の読み書きができない人が大半です。
 それもそのはずで、今まで学校がなかったのです。町場からわずか5–60kmしか離れていないのに、森と川に囲まれて、周りから孤立しています。特に7月から11月の雨季のときは、乾季のときでさえまともな道でないところが、完全にぬかるんで車を寄せつけませんし、川も氾濫し、橋も役に立たないほどです。外部から人が訪れることも難しい状況になります。
 ちょっと前まで、幸いに学校に通える子どもたちでも、川を泳いで、森を越え、隣り村の学校に行っていたそうです。当然、6年間通って小学校を卒業できる人は稀です。文字の読み書きができないとしても当然のような劣悪な環境なのです。そんな村にも1棟5教室の立派な小学校が建ち、子どもたちは、雨の日も風の日も学校で勉強できるようになりました。
 そのドップ・トノット村の小学校の贈呈式に参列した折、村の子どもの代表は、挨拶の中で「これからしっかり勉強しますので、仏さま、どうか長寿・知恵・健康・美しさという四つの御加護をお与え下さい」と述べていました。熱心な仏教信者の国であるカンボジアで、子どもたちが文字を知り、更に知識・教養を身につけ、仏教の心をより多く吸収できるようになれば、国はどんどん豊かになっていくことでしょう。マンガばかり読んでいる日本人もうかうかしていられません。
 これまで学校のなかった村に学校を開校でき、歴史的な日であるとの評価もいただきましたが、まさに未曾有(みぞう)の出来事だったのかもしれません。私にとって、今年一番のうれしいことでもありました。みなさんのうれしいことは何だったのでしょうか。
それでは又、来年1月1日よりお耳にかかりましょう。

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