テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1298話】「希望という一里塚」 2024(令和6)年1月11日~20日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1298話です。

 「路面には農機具や洗濯機、おせち料理用に用意されたと思われる重箱も散乱していた」この新聞記事が、この度の能登半島地震の非情さを象徴しています。地震や災害が頻発する我が国において、いつどこで起きても不思議はないと誰もが思っています。同時に誰もがここではなく、今ではないことを願っています。それは全く人間の都合であり、自然の営みは、時ところを選びません。

 それにしても、年が明けて16時間10分後のお正月気分のさなかに、最大震度7の地震が起き、津波が襲ってくるとは、神も仏も与り知らぬことでしょう。普通は正月早々縁起でもないことは、口に出す事さえ憚られます。初夢を見る前に悪夢以上の現実を見せつけられるとは、かける言葉がありません。

 東日本大震災の時は、「想定外」という言葉が使われました。確かに人知を超えた惨状でした。あの時も、路面には靴や人形、アルバムや通帳、自転車や農機具、自家用車など、ありとあらゆる日常生活を彩っていたものが、泥にまみれで散乱していました。当たり前に身につけ愛用し役に立っていたものが、一瞬にして瓦礫と呼ばれてしまったのです。

 能登の被災地では、正月ということもあり、帰省していた家族や、親戚の人が集まり、新年を祝うという当たり前のひと時を過ごしていたことでしょう。そこで被災してしまった人も少なくありません。日を追う毎に行方不明者が増えているのは、普段はそこに住んでない人の存在を、すぐには確定できないからかもしれません。「あけましておめでとう」と笑顔で挨拶を交わしてほどなく、団欒の場が暗転するとは、夢にも思わぬことです。

 さて、その昔の京都の正月、みんなが着飾って楽しそうに賑わっていました。その人込みの中、杖を持った薄汚い坊さんが、「御用心、御用心」と言って歩いていきます。杖の先にぶら下がっているものは、何と髑髏(しゃれこうべ)です。それに気づいた人は驚き「縁起でもない」と言って、見て見ぬふりをして遠ざかります。怯まず坊さんは言います。「正月だからと言って浮かれているではないぞ。やがては誰もがこうなるのだ。各々方用心なさるがよい」その坊さんこそ、あの一休さんです。「門松は 冥土の旅の 一里塚 めでたくもあり めでたくもなし」という歌を残しています。

 正月にしゃれこうべは一休さんの究極の皮肉ですが、無常の本質を伝えています。お正月に大震災は厳然たる事実で、無常非情の極みを刻印しました。諸行無常を英語では〈Everything is changing all the time〉、全てのものは常に変化し続けるということです。必ず変化できます。変化しなければなりません。どうか希望を捨てないでください。「希望とは 復興の旅の 一里塚 めでたき日々の 来ると信じて」

 ここでお知らせいたします。昨年12月のカンボジアエコー募金は、1,499回×3円で4,497円でした。ありがとうございました。それでは又、1月21日よりお耳にかかりましょう。

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