テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1068話】「お連れ様」 2017(平成29)年8月21日-31日

住職が語る法話を聴くことができます

1068.jpg お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1068話です。
 宅配便の最大手ヤマト運輸は、10月1日より運賃を値上げすることになりました。全国的に人手不足で労働力確保が困難になっていることが大きな理由のようです。今どきの宅配便の、いつでもどこへでも何でも運ぶという便利さが、自らの首を絞めかねるような状況を生んでいないのでしょうか。我々利用者のわがままのせいもあるでしょう。
 数年前のことです。徳本寺にお墓がある東京在住の檀家さんから、母親の遺骨を納骨したい旨の電話連絡がありました。ご自身は病弱の身でとてもお寺まで遺骨を持参できないので、宅配便で送りたいとのことでした。「宅配便で?」と思わず聞き返しました。そして、どなたか身寄り方に依頼することはできないのかと尋ねました。親戚がいないわけではないが、遺骨を託するほどの付き合いはないと言います。
 結果、数日後やや大袈裟と思えるほどの梱包が施されて、遺骨が届きました。勿論遺骨に何の支障もありませんでた。ただ、火葬済み許可証だけが付き添ってきた遺骨はあまりに不憫でした。80年以上も生きた人生でも、いとも簡単に宅配されてしまう世の中になったのは事実です。便利さの影でぬくもりが消えていくような気がします。
 一方、西日本新聞に次のような記事が載っていました。横浜の男性は半世紀も連れ添った妻の遺骨を佐賀県の寺に納骨するため、羽田空港から飛行機に乗りました。遺骨を機内に持ち込めるとは知っていたものの、入れたバッグがかなり大きく、念のため搭乗手続きの際に、遺骨であることを伝えました。機内に乗り込み、上の棚にバッグを入れて席に着きました。ほどなく客室乗務員が来ました。「隣の席を空けております。お連れ様はどちらですか?」
 男性は搭乗手続きで言ったことが機内に伝わっていたのだと理解しました。「ああ、上の棚です」と説明すると、乗務員はバッグごと下ろしてシートベルトを締めてくれました。更に飛行中には、「お連れ様の分です」と飲み物も出してくれたそうです。男性は「最後に2人でいい"旅行"ができた」と穏やかに話していました。
 人は生きている限り血が通い温かいものです。血液ばかりではなく、人としての通い合いもあります。親子・兄弟・夫婦・友人など、そのぬくもりが人生を形作っていきます。死んでしまえば血が通わなくなり、冷たくなります。しかし、決してそれは「もの」ではありません。便利さや打算など抜きにしたぬくもりのある通い合いは、死んでも冷めるものではなく、どこまでもお連れ様です。運賃のいらない人としての通い合いがなくなったら、運賃値上げ以上に、薄情な世の中に音を上げてしまいます。
 それでは又、9月1日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【1317話】
「18歳と81歳」
2024(令和6)年7月21日~31日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1317話です。 「年齢7掛け説」というのがあるそうです。健康な現代人の年齢は、3割若く数えても大丈夫だということです。60歳なら42歳、70歳なら49歳、80歳なら56歳という風にです。50代・60代の頃はさもありなんと思っていましたが、さすがに70歳を超えると、8掛け・9掛けが現実に即している気がします。 さて、ある方から「... [続きを読む]

【1316話】
「不二山」
2024(令和6)年7月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1316話です。 東京都国立市では、駅前から伸びる通りを富士見通りと称しています。晴れた日には富士山を望めるからです。2年前にこの通りにマンション建設の話が持ち上がりました。地元では景観をめぐって反発したものの、建築基準法上の問題はないということで着工、先月完成しました。しかし引き渡しまじかにな... [続きを読む]

【1315話】
「一心松」
2024(令和6)年7月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます 元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1315話です。 東日本大震災で大津波を目撃した人は、「松林の上から黒い煙が出ているように見えた」と言っていました。最大波12.2㍍ともいわれる津波が、わが山元町の沿岸部の松林を根こそぎ破壊しました。松は養分や水分がなくても育ち、塩害や風にも強いことから、防風林・防砂林として用いられてきました。し... [続きを読む]