テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第899話】「無常の理」 2012(平成24)年12月11日-20日

住職が語る法話を聴くことができます

899.JPG お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第899話です。
 今年の自殺者が、15年ぶりに3万人を下回るだろうとの見通しが、警視庁より発表されました。11月までの自殺者は、昨年の同時期より、2,800人減って、25,754人だそうです。1998年以来続いていた自殺者3万人超えも、各地での自殺防止対策の効果の表れで、歯止めがかかりつつあるのでしょうか。因みに昨年は30,651人でした。それは東日本大震災犠牲者の約2倍に当たります。
 その犠牲者の方々は、こんなことで死ぬとは堪らないという無念の思いがあったはずです。昨年は来る日も来る日も、犠牲者の葬儀を行い200人以上の方をお見送りしました。そして、もうこれ以上一人の人も死んでほしくないと切に願いました。それは叶わないことです。震災とは直接関係なく、病気などで亡くなる方も一人ふたりではありませんでした。今年になってからは、何とか震災の難は逃れたものの、体調を崩して亡くなる方など、やはり葬儀は絶えませんでした。
 83歳のその男性は、家族がなく一人暮らしでした。それでも常に家の中も外も、ほんとうにきれいに掃除が行き届いていました。耳が少し不自由でしたが、日常生活はきちんとしていました。男性が住まいする地区は、海に近く、多くの犠牲者が出て、かなりの家屋も流されました。男性の自宅はその地区では、被害を受けなかった数少ない一軒です。それでも、庭先まで津波は来たと言います。ともあれ無事で震災以後、平穏に暮らしていました。
 しかし、今月5日、家の中でひとりで倒れている状態で発見されました。新聞配達の方が、外の郵便受けに何日分も新聞が溜まっているのを不審に思い、隣近所に連絡をして、事態が明らかになりました。警察の調べでは、病死で死亡推定日は11月25日ということでした。10日間もその死を知られずにいたことになります。それでも、葬儀は遠い縁戚関係の方も駆けつけ、隣近所のお世話も受けて、しめやかに営まれました。直接の身寄りもなく、普段のお付き合いも限られたものだったかもしれません。でも、葬儀の様子から窺い知れるのは、その男性も隣近所の人も、震災を乗り越えた者同士というある種の強い心の通い合いがあったということです。
 震災の時、生きていたいという理由をいくら並べても、叶わなかった人が1万5千人を超えています。震災以後、死んでほしくないという理由を掲げても、無常の理はそれを許しません。そして自殺を思うとき、自殺しようとするには、それなりの理由があることでしょう。でも、生きていたいという理由を並べても生きられなかった人の前で、死にたいという理由は、かすんでしまいます。震災以後、誰もが無常の事態に寄り添う気持ちを強くしているのではないでしょうか。無常を実感すればするほど、生きていたい理由が増えるはずです。
 ここでご報告致します。11月のカンボジア・エコー募金は、107回×3円で321円でした。ありがとうございました。
 それでは又、12月21日よりお耳にかかりましょう。

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