テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1261話】「ツキを目指して」 2023(令和4)年1月1日~10日


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1261話です。

 あけましておめでとうございます。今年は兎年ですが、前回の兎年は12年前の平成23年あの東日本大震災があった年です。犠牲になられた方は斉しく13回忌を迎えます。丸12年なのに13回忌というのは、亡くなったその年の命日を1回目と数えるからです。今年が13回目の命日ということです。

 あの年の正月、誰もが大震災が起きるとは1ミリも思わず、兎年に因んで飛躍の年にしたいなどと1年の抱負を思い描いていたはずです。しかし想定外の現実が、抱負を恐怖に変えてしまいました。多くの尊い命とともに失ったものは数え切れません。ツキに見放されたと思った方もいたことでしょう。それでも被災地では、精進の歳月を重ねて、何とか日常生活を取り戻すまでになりました。今年の兎年には迷わず「跳ねてみる ツキ(月)を目指して 今年こそ」という抱負を書きました。幸運というツキと空の月を掛けていますが、月に兎ということでもあります。

 実はそう思わせるものが、昨年12月11日にあったのです。日本の宇宙ベンチャー「アイスペース」の、月探査計画「HAKUTO—R」によって、月着陸船が打ち上げられました。民間初のことで、計画通りなら今年4月末ごろには、月に辿り着きます。着陸すればランダ―という月着陸船から、ローバーという月面探査車が降ろされます。月の表面をその車が走り、様々な月の情報を日本にもたらすことが可能になるのです。計画名になっているHAKUTOは、勿論白兎のことです。月の影の模様が兎に見えるので月には兎が住む、という伝承に因んでいます。

 この飛行計画の興味深いところは、いったん地球から約150万キロメートルまで離れて、遠回りをして月に向かうということです。地球と月と月着陸船には、互いに引き合う引力があります。更に、太陽や大きな惑星による引力の影響もあります。それらを考慮して、時間はかかるが少ない燃料で行けるからだそうです。まるで亀との競争で不覚を取った兎の教訓を生かして、急がば回れとでもいうかのようです。

 兎と亀といえば、「兎角亀毛」という仏教語があります。兎の頭に角が生えたり、亀の甲羅に毛が生えるということで、どちらも現実に存在しないもののたとえです。しかし、12年前、現実には起きないだろうと思われた大震災が起きました。今年は月に行くことなど夢のまた夢と思っていたことが、現実になりつつあります。兎に角、今年こそは自分の現実なる足元の地面をしっかり固めて、亀の着実さと、脱兎の勢いも兼ね備えて、飛躍を目指しましょう。そんな姿を見せれば、見放されたと思っていたツキが、ひよっこりやって来るかもしれません。旧正月でもないのに「すみません、ツキ遅れでした」などと言って・・・。

 それでは又、1月11日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【1308話】
「花咲か爺さん」
2024(令和6)年4月21日~30日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1308話です。 枯れ木に花を咲かせたのは「花咲か爺さん」、被災地の荒地に花を咲かせたのは「NPO法人三島緑の会」です。静岡県三島市の団体で、東日本大震災後の2013年から日本沙漠緑化実践協会の植樹活動に参加し、毎年山元町に桜を植樹して下さっています。一昨年はコロナ禍のためお出でいただけませんでしたが、苗木を送って下さいました。縁... [続きを読む]

【1307話】
「揺らがず大遠忌」
2024(令和6)年4月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1307話です。 たとえばですが、「正月の元旦に地震の避難訓練をします」と言われて、参加しますか?正月早々とんでもないと、誰でも思います。しかし無常なる自然は、正月とか人間の都合に忖度しません。能登半島では元旦にとんでもない地震が起きたのです。 実は能登半島は曹洞宗にとっては聖地です。曹洞宗に... [続きを読む]

【1306話】
「シッダールタ」
2024(令和6)年4月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1306話です。 「文殊丸」「行生」という2人の名前で、どなたかわかりますか。ヒントはどちらも曹洞宗に関わる方です。文殊丸は大本山永平寺を開かれた道元禅師、行生は大本山總持寺を開かれた瑩山禅師の幼名です。昔は幼い時に仮に名付ける名前や元服以前の名前を持つことがあったようです。 さて、4月8日は... [続きを読む]