テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1286話】「夜霧の渡し」 2023(令和5)年9月11日~20日


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1286話です。

 「矢切の渡し」は昭和歌謡の代表曲です。「つれて逃げてよ・・」と始まる恋の逃避行の歌で、柴又から対岸の矢切に向かう渡し船が舞台です。矢切の渡しは江戸川で唯一現存するものですが、各地にも現役の渡し船は残っています。考えてみれば、人生も渡し船に乗っているようなものです。

 人生の川の向こうは、彼の岸で「彼岸」といいます。いわゆる仏さまの世界です。ただ誤解しないでください。死んで仏さまではなく、仏さまのような心で生きられる人が行くところが彼岸です。その反対のこちら側の岸は、此の岸で「此岸」といいます。いわば我々凡夫が今いる現実の世界です。此岸から彼岸へ渡るとは、悩み苦しみながらも、よりよく生きようとすることです。

 彼岸に渡る川は三途の川です。三途とは「貪 瞋 痴」という三毒の煩悩をいいます。「むさぼり いかり おろかさ」のことです。貪欲に食べ物を求め、隣の人の分まで取ってしまい、争いになる。そのことが自分勝手で迷惑をかけるという思いに至らない愚かな人がいい例です。三毒は心の闇で、何が正しいかという指針となる灯りがない状態です。

 三途の川を渡るには「六文銭」が必要だと言われます。それは船賃というよりは、行く先を照らす灯りのようなもので、彼岸の教えの「六波羅蜜」を指します。波羅蜜とはインドの言葉の「パーラミター」の音訳で、「到彼岸」を意味します。つまり六波羅蜜は彼岸に到るための6つの努力目標のことです。それが仏の教えであり、三毒の闇を照らす灯りとなり、彼岸に渡る船の羅針盤とも言えます。

 その六波羅蜜とは、1つ布施(物でも心でも施し支え合う)、2つ持戒(慎み忘れず決まりを守る)、3つ忍辱(苦しみに挫けず耐え忍ぶ)、4つ精進(善きことにひたすら励む)、5つ禅定(世間に流されない落ち着き)、6つ智慧(迷いを断つ自覚を持つ)という6つの修行徳目です。

 「矢切の渡し」は、親の心に背いても、ふたりで生きようとする覚悟の歌ともいえるでしょうか。私たち凡夫は、仏の心に背いてわがままに生きて、三毒の闇で迷っています。その闇は、矢切ならぬ夜霧のようです。夜霧の渡しには、灯りがなければ彼岸に辿り着くことはできません。せめて六波羅蜜の1つでも意識して、灯りのある生活を送ってみませんか。たとえば布施には和顔施というのもあります。何ら元手はいりませし、覚悟も必要ありません。お互い笑顔で挨拶するだけです。しかし、悩み苦しんでいるときに笑えないと言うかもしれません。「幸せだから笑うんじゃない 笑うから幸せになるんです」この言葉を信じて和顔施を心がけてみてください。きっと夜霧は晴れるでしょう。

 ここでお知らせいたします。8月のカンボジアエコー募金は、1,540回×3円で4,620円でした。ありがとうございました。

 それでは又、9月21日よりお耳にかかりましょう。

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