テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1284話】「どこでもドア」 2023(令和5)年8月21日~31日


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1284話です。

 東京ドームの約2倍分の8.2ヘクタールの広大な農地に、約300万本のひまわりが咲き誇る様を想像してみてください。世の中にこんな景色があるのかと、素直に感動します。「第6回やまもとひまわり祭り」でのことです。

 そこは東日本大震災前は、普通に民家があり、田畑が広がるのどかな田園地帯でした。まぎれもないこの世の景色です。しかし、大津波で民家は1軒残らず流され、瓦礫で埋め尽くされ、たくさんの遺体も発見されたところです。この世のものとは思えない地獄のような光景でした。

 あれから12年、あたりは災害危険区域となり、住まいすることはできません。しかし、広大な農地となり、大型農業が営まれています。その沿岸部の農地の地力増強を目的に、毎年場所を替えてひまわりが作付けされています。祭り終了後は、緑肥として畑にすき込まれます。

 会場内の高見台から、ひまわりの壮大なパノラマが一望できましたが、全体が黄色に染まる中で、ポツンとピンクの物体が見えました。何とあの「どこでもドア」です。ドラえもんの秘密の道具第1号と言われる魔法の扉です。目的地を言ってドアを開けると、その先が目的地になるとか。何人かの人が開けて入って行きましたが、果たして目的地はあったのでしょうか。

 私は震災前の田園地帯に行ってみたいとも思いましたが、ひまわりの前向きな姿を見て、変わりました。震災の縁で広大なひまわり畑ができたように、復興への歳月で培った悲しみや喜びは、ひまわり以上の肥やしとなって、人々の心を強靭にしてくれました。現実にはドアを開けた先に特別な世界があるわけではなく、ひまわりの先にも更にひまわりが広がっているのです。過去から学んだ明日の元気の源です。ひまわりが大地に根を張って、しっかり太陽に向かっている、それが今の私たちの姿そのものです。

 さて「どこでもドア」でドラえもんは、思い通りのところに行けましたが、意のままになることを如意といいます。そして僧侶は、読経や説法をするときに如意という持ち物を手にします。元々は孫の手のような存在でしたが、現在は僧侶の威儀を保つ仏具です。先端が巻き曲がって蕨のような形で材質は木製など様々です。説法によってあらゆる疑問を自在に解決させる、あたかもかゆいところに手が届くという意味を持たせているのでしょう。

 禅の説法の根幹は空ということです。無の状態で一切比べないということです。他人と比べない、過去と比べない、まだ見ぬ明日を思い煩わなければ、入ってくるものがすべて思い通りのことといえます。そして空は何もないことですが、「放てば手に満つ」何でもあるとも言えます。空の心で目の前のドアを開けてみてください。如意の世界が広がっていませんか。

 それでは又、9月1日よりお耳にかかりましょう。



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