テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1262話】「涅槃金」 2023(令和5)年1月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます



 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1262話です。

 私たちが本山などで修行する時、持ち物は修行に必要な最小限度しか許されません。金銭を所持することもできません。ただ「涅槃金」だけは、必要です。涅槃とは死ぬことも意味し、万が一修行中に死亡した際の火葬費用が涅槃金です。私のころは5千円でしたが、勿論それですべて賄える金額ではありません。いつ死んでもいいという覚悟で修行しなさいという意味も、涅槃金には含まれているのでしょう。

 さて、昨年7月25日に女優の島田陽子さんが、都内の病院でひとりで亡くなりました。69歳でした。日本人初のゴールデングローブ賞テレビドラマ部門主演女優賞を受賞するなど、国際派として活躍した方です。数年前から直腸がんを患っていました。亡くなる直前には経済的にも困窮状態にあったそうです。母親が亡くなった後は親族とは没交渉という事情もありました。居住区の渋谷区役所などが親族に連絡するも、遺体の引き取り手はありませんでした。渋谷区が2週間ほど遺体を保管した後、荼毘に付されました。

 生活保護法では、葬儀をする人がいないときは、自治体が火葬する定めになっています。島田さんもその例だったのです。その後、島田さんの遺骨は知人が引き取り、島田さんの両親が眠るお墓に納骨されたということです。島田さんほどの著名人であっても、その最後を自治体に委ねなければならないというのは、不憫なことです。

 そして現実は、身寄りがなく経済的に困窮して亡くなった人の葬祭費を行政が負担するケースが増えています。2021年度で4万8622件で過去最多となり、この10年で約1万件増加しています。ひとり暮らしの高齢者が増えていることはわかります。ひとり暮らしでも、どこかに身寄りや縁のある方がないとは言えません。ある終活支援センターの方は「かつては無縁仏のほとんどが身元不明者だったが、今では9割以上、身元がわかっているが引き取り手がない人だ」と言っています。つまりつながりが薄くなっているのです。

 終活だからとどんなに身辺整理をしても、死んでから自分自身でお棺に収まることはできないし、火葬場にも行けません。必ずどなたかのお世話になるのです。生きて巡り合った縁をお互い大事にしたいものです。それなのに今年も「今後年賀状による挨拶は控えさせていただきます」などと言う方もおり,正月から淋しい思いをしました。それぞれ都合はあるでしょうが、自ら縁を断つのはもったいないことです。もしかしてお互いのお年玉年賀状で一等賞品現金30万円が当たるかもしれません。当たれば十分な涅槃金となります。涅槃金は覚悟の象徴です。覚悟ができれば、あとは生き生きと過ごせます。

 ここでお知らせいたします。12月のカンボジアエコー募金は、1,205回×3円で3,615円でした。ありがとうございました。

 それでは又、1月21日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【1310話】
「鬼より強い母の愛」
2024(令和6)年5月11日~20日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1310話です。 昔インドに訶梨帝母(かりていも)という母がいて、千人もの子ども産みました。しかし、子を育てる栄養をつけるため、よその子を捕まえて食べるという鬼のような行いで、人々から恐れ憎まれていました。ある時、お釈迦さまは一計を案じ、彼女が一番可愛がっていた末の子を隠します。すると彼女は気も狂わんばかりに嘆き悲しむのです。お釈... [続きを読む]

【1309話】
「なぜ大人が生まれてこない」
2024(令和6)年5月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1309話です。 「生まれてくるのはなぜ赤ちゃん」という郁人君(8)の新聞投書を紹介します。おばさんに子どもが生まれて、抱っこさせてもらい、そこで感じたことを書いています。「ちっちゃいけれど、大人と同じものがいっぱいありました。赤ちゃんは今のぼくとちがい、やりたいことを泣いて知らせることしかでき... [続きを読む]

【1308話】
「花咲か爺さん」
2024(令和6)年4月21日~30日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1308話です。 枯れ木に花を咲かせたのは「花咲か爺さん」、被災地の荒地に花を咲かせたのは「NPO法人三島緑の会」です。静岡県三島市の団体で、東日本大震災後の2013年から日本沙漠緑化実践協会の植樹活動に参加し、毎年山元町に桜を植樹して下さっています。一昨年はコロナ禍のためお出でいただけませんで... [続きを読む]