テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1218話】「二面石」 2021(令和3)年10月21日~31日

住職が語る法話を聴くことができます



 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1218話です。

 先般、奈良県明日香村にある天台宗の橘寺をお参りする機会がありました。付近に聖徳太子が生まれた場所があります。橘寺も聖徳太子が建てた寺院のひとつです。当然の如く本尊には、聖徳太子像を祀ってあります。建立年代は不明ですが、「日本書紀」に寺の存在が記されているので、1500年以上の歴史があるようです。

 そこに「二面石」と呼ばれる不思議な石があります。高さ幅とも約1メートルほどの大きな石です。左右の面に人の顔が彫ってあります。明日香村には石舞台や亀石とか、どうしてこんなものがあるのかと、不思議に思われる大きな石がいくつかあります。二面石も飛鳥時代の石造物と言われます。その二面とは、善相と悪相つまり人の心の二面性を表現しています。向かって右が善の顔、左が悪の顔だそうです。心なしか悪の顔の方が大きく見えます。それはどんな聖人君子でも、生涯悪事は働かなかったと言いきれないということでしょうか。犯罪にならないまでも、ちょっとした嘘をつくとか、誰かを憎んだとか、隠れた悪意はどこかにあります。

 ところで聖徳太子と言えば「十七条憲法」です。二面石との関りのほどはわかりませんが、その第六条には「悪しきを懲らし善(ほまれ)を勧むるは、古(いにしえ)の良き典(のり)なり」とあります。つまり「悪いことをすれば懲らしめて、善いことをするよう勧めるのは、古来よりのよるべき教えである」ということです。それは仏教を含めて、大方の宗教も説いていることです。悪いことはひとつでも少なくして、良いことはひとつでも多く重ねるという教えです。

 更に「十七条憲法」の第二条には「篤く三宝を敬え、三宝とは佛と法(のり)と僧なり」と示し、仏教を敬い信じるたいせつさを説きます。そして仏教に帰依しないで、どうしてよこしまな心を正すことができようかとまで、言いきるのです。人には善悪の二面性が宿っていることを認め、だからこそ仏教がなくてはならないという聖徳太子の宣言でもあります。

 人は裏の心が悪で、表が善という意識があり、裏を隠そうとします。その結果反省の機会を失うことになります。隠しているから分からないと思っているのは自分だけで、他人様はお見通しです。いっそ、二面石のように左右並列に善悪を晒しておきましょう。そうすれば仏の教えに照らし合わせたとき、私にはこんな嫌な面があるから、これ以上悪くならないようにと反省しやすくなります。その心は洋服でいえば、リバーシブルのようなもので、表も裏もなく我が身を着飾ることができます。これってリーズナブルではありませんか。

 ここでお知らせいたします。10月24日(日)午後2時 徳本寺にて「第15回テレホン法話ライブ」を開催致します。ゲストは津軽三味線日本一の織江響さん。入場無料です。

 それでは又、11月1日よりお耳にかかりましょう。


二面石

最近の法話

【1310話】
「鬼より強い母の愛」
2024(令和6)年5月11日~20日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1310話です。 昔インドに訶梨帝母(かりていも)という母がいて、千人もの子ども産みました。しかし、子を育てる栄養をつけるため、よその子を捕まえて食べるという鬼のような行いで、人々から恐れ憎まれていました。ある時、お釈迦さまは一計を案じ、彼女が一番可愛がっていた末の子を隠します。すると彼女は気も狂わんばかりに嘆き悲しむのです。お釈... [続きを読む]

【1309話】
「なぜ大人が生まれてこない」
2024(令和6)年5月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1309話です。 「生まれてくるのはなぜ赤ちゃん」という郁人君(8)の新聞投書を紹介します。おばさんに子どもが生まれて、抱っこさせてもらい、そこで感じたことを書いています。「ちっちゃいけれど、大人と同じものがいっぱいありました。赤ちゃんは今のぼくとちがい、やりたいことを泣いて知らせることしかでき... [続きを読む]

【1308話】
「花咲か爺さん」
2024(令和6)年4月21日~30日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1308話です。 枯れ木に花を咲かせたのは「花咲か爺さん」、被災地の荒地に花を咲かせたのは「NPO法人三島緑の会」です。静岡県三島市の団体で、東日本大震災後の2013年から日本沙漠緑化実践協会の植樹活動に参加し、毎年山元町に桜を植樹して下さっています。一昨年はコロナ禍のためお出でいただけませんで... [続きを読む]