テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1164話】「蝶を追いかけて」 2020(令和2)年4月21日~30日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1164話です。

 昨年、リチウムイオン電池の開発でノーベル化学賞を受賞した吉野彰さんの信条は、「柔軟心と執着心」だそうです。頭の柔らかさをもって事にあたり、最後まで諦めずに事を成し遂げるという心構えでしょうか。

 吉野さんが小学4年生の時の担任は、女性の方で学生時代に化学を専攻していました。その先生に、英国の科学者ファラデーの「ロウソクの科学」という本を薦められました。「ロウソクはなぜ燃えるのか、炎はなぜ黄色いのかといった内容で、子ども心に化学はおもしろそうだ」と思ったのです。好きこそものの上手なれで、関心を抱いたことが、どんどん得意分野になっていきました。身の回りの素材で「実験」に熱が入っていきます。トイレの洗浄用に置いてある塩酸を、近くで拾った鉄の塊にかけては、ボコボコと出る泡を見て面白がるという風にです。順調に化学が得意科目になり、京都大では、当時、花形だった石油化学を専攻します。

 しかし、順調に化学を勉強したかといえばそうではありません。専門以外の知識も身に着けようと、教養課程の2年間は考古学に打ち込みます。「石油化学が最先端なら、一番古い歴史、考古学をやってみよう」と考えたところが並ではありません。全く異なる分野でも、考古学と化学は似たところがあると言います。文字がない時代、頼りになるのは出土した土器などの物的証拠。言葉の解釈ができない分、物証を積み重ねていくしかありません。事実に対して非常に謙虚な、実験科学のようなものだとか。ここで培ったことが、後々の研究開発に非常に役に立ったそうです。

 「天才とは 蝶を追いかけて 山頂まで登ってしまう 少年のことである」アメリカの作家スタインベックの言葉です。「ロウソクの科学」という一冊の本に魅せられた吉野少年は、とうとうノーベル賞という山頂を極めたのです。

 さて新型コロナウイルスの治療薬を発見したらノーベル賞ものかもしれません。しかし、まだしばらくは辛抱しなければならないようです。現在、世界中で15億人の子どもたちが、学校に通えない状況にあります。子どもも先生も体験したことのない環境での勉強は、不安です。でも吉野少年と同じように、やわらかな頭の持ち主の子どもさんたちに期待します。

 禅の言葉に「柔軟な心」と書いて「柔軟心(にゅうなんしん)」というのがあります。凝り固まらず、固定観念にとらわれない心の持ちようを言います。勉強は学校という空間で、机に向かってするだけではありません。自分が好きだと思う蝶が、春風と戯れ始めています。それを探しに出かける日がきっと来ます。こんな歌でも歌いながらその日を待ちましょう。

 「コロナ コロナ うつさず消えよ 今すぐ消えたら この世は春だ 学校通い 会社に勤め 学べよ遊べ 汗して笑おう」(「ちょうちょ」替え歌)

 それでは又、5月1日よりお耳にかかりましょう。


法話に因んで「蝶柄のマスク」を手作りしました
製作者は法話の中で「ちょうちょ」の替え歌を歌っている早坂晶子です

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