テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第841話】「未練から大練へ」 2011(平成23)年5月1日-10日

住職が語る法話を聴くことができます

2011.05.01.jpg お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第841話です。
 3月11日に被災し、犠牲になられた方の死亡診断書を見ると、ほとんどがその日の午後4時頃の死亡となっています。大津波が押し寄せ、一気に大勢の命を呑み込んだということなのでしょう。そして斉しく4月28日に「四十九日」を迎えました。私はこの49日の間、連日遺体安置所で、犠牲者の供養のお経をお勤め致しました。
 その場所は本来ならのどかな田園風景が見渡せるところです。しかし、大震災で景色は一変しました。黒いヘドロが広がり、家屋から車からありとあらゆる瓦礫が点在しています。この世のものとは思えないような光景を前に、足元には何十という柩が安置されています。私は今どこにいるのだろうという気になってしまします。勿論、ご遺族の方は、更に辛い思いでご遺体と向き合い、現実とは思えず放心状態です。かける言葉もなく、ひたすらにお経を挙げるのみでした。
 それは、亡き人に「仏」になって欲しいという一念からです。そして仏になった亡き人を拝む人にも「ほとけ」になっていただきたいからでもありました。曹洞宗を開かれた道元禅師さまは、『正法眼蔵』の「供養諸仏」の巻で、「仏さまを供養する功徳により『ほとけ』になるのである。いままでに一仏も供養申し上げたことのない人びとが、どうして『ほとけ』になることがありましょうか」と、述べておられます。仏を拝んで自らも「ほとけ」となるということですが、勿論簡単なことではありません。
 大津波の直前まで電話で話をした人、お昼まで一緒だった人、昨日たまたま家に帰って来た人、そういった方が、突然に思いもよらない災害に遭って、変わり果てた姿で目の前にいるとは、とても信じられるものではありません。世の無常を観じ、亡き人への未練が募るばかりです。しかし、いつかは愛しい人がこの世にいないことを納得しなければなりません。いつまでも「いたはずなのに」と居ない人を思っていても、それは夢を見ているに等しいことです。
 生命の誕生に7日周期があるように、亡くなった人も7日毎の節目の供養があり、それを7度過ごして7・7の49日となります。「四十九日」は特に大練忌と言われます。「大きい」と「熟練」の「練」と書き「大練忌」です。「大いに練れてきた」とは「納得した、悟った」と言ってもいいでしょう。辛いながらも亡くなったという事実を何とか受け容れる節目の日ということです。7日毎に仏を供養することで無常を我がこととして捉えることができます。未練の心も整理され、未練から大練へと心の立て直しに向かえるはずです。
 「無常そのものに人生があるのではなく、無常の受けとめ方にこそ人生はある」とは至言です。無常だからそれで終わりではなく、無常だからそこから始められるということを納得できた人こそ「ほとけ」ではないでしょうか。
 それでは又、5月11日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【1310話】
「鬼より強い母の愛」
2024(令和6)年5月11日~20日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1310話です。 昔インドに訶梨帝母(かりていも)という母がいて、千人もの子ども産みました。しかし、子を育てる栄養をつけるため、よその子を捕まえて食べるという鬼のような行いで、人々から恐れ憎まれていました。ある時、お釈迦さまは一計を案じ、彼女が一番可愛がっていた末の子を隠します。すると彼女は気も狂わんばかりに嘆き悲しむのです。お釈... [続きを読む]

【1309話】
「なぜ大人が生まれてこない」
2024(令和6)年5月1日~10日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1309話です。 「生まれてくるのはなぜ赤ちゃん」という郁人君(8)の新聞投書を紹介します。おばさんに子どもが生まれて、抱っこさせてもらい、そこで感じたことを書いています。「ちっちゃいけれど、大人と同じものがいっぱいありました。赤ちゃんは今のぼくとちがい、やりたいことを泣いて知らせることしかできません。/なぜ生まれてくるのは赤ちゃ... [続きを読む]

【1308話】
「花咲か爺さん」
2024(令和6)年4月21日~30日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1308話です。 枯れ木に花を咲かせたのは「花咲か爺さん」、被災地の荒地に花を咲かせたのは「NPO法人三島緑の会」です。静岡県三島市の団体で、東日本大震災後の2013年から日本沙漠緑化実践協会の植樹活動に参加し、毎年山元町に桜を植樹して下さっています。一昨年はコロナ禍のためお出でいただけませんで... [続きを読む]