テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第787話】「張り扇」 2009(平成21)年11月1日-10日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第787話です。
kandaorine.JPG
 先般、徳本寺本堂において講談独演会を催しました。女流講談師 神田織音(かんだおりね)さんの出演で、演目は「白狐(びゃっこ)の恩返し」です。白狐が危ないところを助けてもらった恩を感じて、その助けてくれた若者の妻となり、子どもにも恵まれ、幸せな家庭を築きます。しかし、ある時、狐であることが知られ、家族の許を去ることになるという物語です。
 狐が乗り移ったかのような神田織音さんの熱演で、参加された檀家さんも、水を打ったようにしんみりとして聴き入っていました。狐につままれたわけではありませんが、テンポよく話が展開し、また臨場感溢れる語りでしたので、どんどん物語の中に引き込まれたのかもしれません。講談の面白さを再認識致しました。
 さて、講談の特徴のひとつに、釈台という机を、パンパンと叩くしぐさがあります。「張り扇」と呼ばれる扇子で話の調子を整えるために用いるそうです。勿論、むやみやたらに叩くものではなく、それなりにタイミングがあるとのことでした。一つは、時代が変わる時、もう一つは、舞台が変わる時、更に加えて、眠っている人を起こす時に、パンパンと釈台を叩くとか。なるほど、扇ひとつで、現代から江戸時代になったり、家にいたかと思えば、山の中に移動できるとは便利な小道具です。
 私たちの日常生活の中でも、こんな「張り扇」があったらおもしろいでしょうね。パンと叩いて10年ぐらい時代を遡ってみる。もっと若い時の方がいいと、パンパンと叩いて、子ども時代に戻るなんていうことができたらどうでしょう。こんな職場面白くないからと、パンと叩いて、ディズニーランドで遊んでいる。パンパンと叩いて、海外旅行に出かけ、羽を伸ばす。そんな魔法のような「張り扇」があったとしたら、世の中はどうなるでしょう。
 誰もが「今」を見失って、過去の良かったことにだけに思いを馳せてしまうでしょう。また、何事にもすぐに不満を感じて、もっと良いところがあるはずと、自らの至らなさを棚に上げ、よそを羨ましがるばかりかもしれません。でも、確実なことは、今の自分であり、今立っている自分の足元です。それを見失うと、妄想(もうぞう)という狐に騙されることにもなりかねません。そんな時こそ「張り扇」の出番です。パンパンと叩いて、目を覚まさせてもらいましょう
それでは又、11月11日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【1310話】
「鬼より強い母の愛」
2024(令和6)年5月11日~20日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1310話です。 昔インドに訶梨帝母(かりていも)という母がいて、千人もの子ども産みました。しかし、子を育てる栄養をつけるため、よその子を捕まえて食べるという鬼のような行いで、人々から恐れ憎まれていました。ある時、お釈迦さまは一計を案じ、彼女が一番可愛がっていた末の子を隠します。すると彼女は気も狂わんばかりに嘆き悲しむのです。お釈... [続きを読む]

【1309話】
「なぜ大人が生まれてこない」
2024(令和6)年5月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1309話です。 「生まれてくるのはなぜ赤ちゃん」という郁人君(8)の新聞投書を紹介します。おばさんに子どもが生まれて、抱っこさせてもらい、そこで感じたことを書いています。「ちっちゃいけれど、大人と同じものがいっぱいありました。赤ちゃんは今のぼくとちがい、やりたいことを泣いて知らせることしかでき... [続きを読む]

【1308話】
「花咲か爺さん」
2024(令和6)年4月21日~30日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1308話です。 枯れ木に花を咲かせたのは「花咲か爺さん」、被災地の荒地に花を咲かせたのは「NPO法人三島緑の会」です。静岡県三島市の団体で、東日本大震災後の2013年から日本沙漠緑化実践協会の植樹活動に参加し、毎年山元町に桜を植樹して下さっています。一昨年はコロナ禍のためお出でいただけませんで... [続きを読む]