テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1292話】「故郷が微笑んだ」 2023(令和5)年11月11日~20日

 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1292話です。

 中学校の通学途中に小さな楽器店があり、ギターがぶら下がっていました。どうしても欲しくて、小遣いを貯めて手に入れたものの、ギターの才能がないことをすぐに納得させられました。しかし、フォークソングブームがやってきて、ギターを弾きながら歌う姿には憧れました。

 その憧れの1人は、先月74歳で亡くなった谷村新司さんです。彼の人生も中学時代に中古のギターを手にしたことが始まりとか。私はいつの間にか木魚に替わりましたが、彼はギターを手放さず「いい日旅立ち」「昴」など、歌い継がれる名曲を残しました。そして私は「遠くで汽笛を聞きながら」という歌に影響を受けたのです。

 本山で修行を終えて間もない頃。寺で書きものをしているときに、ラジオからこの歌が流れてきました。「悩みつづけた日々が まるで嘘のように 忘れられる時が来るまで心を閉じたまま 暮らしてゆこう 遠くで汽笛を聞きながら 何もいいことがなかったこの街で」。本山に修行に行くとき、故郷に愛着もなく、友だちとも縁を切るくらいの、プチ出家の気持ちでした。ほんとに僧侶として生きていけるか悩みつづける日々だったのです。

 しかし、修行を終えて寺に落ち着いてみると、あれほど遠ざけていた故郷も愛おしさが募り、離れていた友だちにも会いたい思いが湧いてきました。そんな時「遠くで汽笛を聞きながら」と言う谷村さんの歌が耳に入って来たのです。「そうか私はこの町で僧侶として生きていくしかないんだ」と、プチ覚悟のようなものが芽生えました。

 そして、気づいたら新聞チラシの裏に「汽笛が消えた日 線路は春に続いてた 一足早い季節がぼくを誘ってた 今 黒い大地に希望という文字 書きに行こう 希望が生まれた日 故郷は僕に微笑んだ」という文句を殴り書きしていました。何かが吹っ切れた感じだったのです。実はそれは「東北新幹線の歌」をイメージした歌詞のつもりでした。当時翌年に東北新幹線開業を控えて、河北新報と東北放送が記念の歌を募集していたのです。

 谷村さんは「遠くで汽笛を聞く」のですが、私は新幹線にはいわゆるの汽笛はなく、もっとスマートに走るのだろうと思い、「汽笛が消えた日 線路は春に続いてた」としました。春夏秋冬を意識して、4番までの歌詞をまとめて応募したところ、図らずも入選して、郷ひろみさんが歌って「故郷は僕に微笑む」というレコードになりました。ささやかな私の人生の中では、大きな出来事でした。以来、故郷で曲がりなりにも僧侶として生きています。「遠くで汽笛を聞きながら」の3番には「自分の言葉に 嘘はつくまい人を裏切るまい」とあります。僧侶として心がけていることでもあります。谷村さんは我が行く手を照らしてくれた「昴」のような存在です。ご冥福をお祈りいたします。

 ここでお知らせいたします。10月のカンボジアエコー募金は、908回×3円で2,724円でした。ありがとうございました。それでは又、11月21日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【1324話】
「少年の心
達磨の心」
2024(令和6)年10月1日~10日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1324話です。 心理学者の児玉光雄は、大リーグの大谷選手を「少年の心を持つスーパーアスリート」と表現しています。少年時代から野球を楽しむ心を忘れず、自発的に物事に取り込める姿勢が、想像を超えた活躍に繋がっているというのです。 大谷選手は50-50つまり、50本塁打50盗塁という夢のような記録を、軽々と超えてしまいました。アメリ... [続きを読む]

【1323話】
「土俵に彼岸を見た」
2024(令和6)年9月21日~30日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1323話です。 大相撲秋場所6日目結びの一番。大関豊昇龍が平幕王鵬にすくい投げで敗れました。余程悔しかったのでしょう。土俵を拳(こぶし)で突き、きちんと礼をすることなく、花道に向かったところ、審判長に呼び止められ、再び土俵に上がります。そこでも礼が合わず再びやり直しをさせられました。洒落ではあ... [続きを読む]

【1322話】
「醍醐味は元気でゆっくり」
2024(令和6)年9月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1322話です。 牛乳の精製過程の5つの味のうち、最後に出てくる最上の味を醍醐味と言います。仏教ではそれを最高の境地の涅槃にたとえます。そして醍醐の原語は「サルピル・マンダ」で、あのカルピスの名称の元であると言われます。そのカルピスが好物で、116歳の今も元気で世界最高齢に認定されたのは、兵庫県... [続きを読む]