テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1257話】「失敗こそ」 2022(令和4)年11月21日~30日

住職が語る法話を聴くことができます



 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1257話です。

 「失敗のない人生は、それこそ失敗でございます」知恵ある老人の言葉として、作家の森まゆみさんが新聞で紹介していました。山ほど失敗を重ねてきたわが人生は、あの失敗がなければと、後悔しきりです。それでも一つだけ誇れる失敗があります。

 大本山總持寺で修行を始めて間もない頃です。修行道場の中枢ともいうべき僧堂でその失敗がありました。僧堂では起きて半畳、寝て一畳と言われる「単」という自分のスペースが与えられます。坐禅や食事・寝起きをするところです。

 たまたま僧堂に忘れ物を取りに行ったところで、先輩和尚さんに出会い「コラッ!お前は何という格好をしているんだ」と、いきなり叱られました。「僧堂に作務衣で入るとは何事だ。ここは神聖なところだ。きちんと衣を身に着けろ。着替えて出直して来い」。私は僧堂に作務衣で入ってはいけないことを知らなかったのです。

 ともかく衣に着替えてくると、外単という僧堂の外にあたるところで坐禅を組まされました。先輩も衣ですが、手には警策という長い棒を持っています。「作務衣で僧堂に入るとは、修行の第一歩を分かっていないな。お前を送り出してくれた国の母親が見たら、何と思うか。立派に修行して戻ってきてほしいと願っている母を思い浮かべてみろ」と言って、パンパンと警策で肩をたたかれました。いわゆる失敗や悪いことをしたときにたしなめる罰として警策の「罰策」です。

 更に説教は続きます。「總持寺の御開山瑩山禅師の母親は、熱心に観音さまを信仰し、観音さまのような子が生まれるようにと、願をかけられた。『世の中で役に立ち人々を導けるような子であって欲しいが、そうでなければ、私の腹の中で朽ちてしまうことも厭いません』。そんな強い思いを抱いて瑩山禅師をお産みになったのだ。それに応えるかのように、禅師は御本山を開かれるまでの修行に励まれた。お前はその瑩山禅師のお膝元で修行しているのだ。国の母親も気持ちの上では同じであろう。何事も疎かにせず、しっかり修行せよ」パンパンと、また警策の音が堂内に響いたのでした。

 失敗も修行のうちです。失敗して覚えることの方が多いかもしれません。ただ、修行は自分だけのことではないのだ、母親はじめ私を案じてくれている人を思えば、いい加減なことはできないと肝に銘じました。この一件のおかげで、本山では曲がりなりにも人並みの修行の道を歩むことができました。その後、先輩は何かにつけ良きアドバイスをくださいました。今では警策ならぬ杯を酌み交わすこともある間柄です。

 因みに瑩山禅師がお生まれになったのは、文永5年(1268)11月21日です。たまたま私の誕生日も11月21日です。どなたの母親も子に対する願いは一緒ですが、応える子どもはそれぞれです。瑩山禅師のようにはなれませんでしたと、毎年の誕生日には、母親のお墓の前で手を合わせている私です。

 それでは又、12月1日よりお耳にかかりましょう。

最近の法話

【1317話】
「18歳と81歳」
2024(令和6)年7月21日~31日

お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1317話です。 「年齢7掛け説」というのがあるそうです。健康な現代人の年齢は、3割若く数えても大丈夫だということです。60歳なら42歳、70歳なら49歳、80歳なら56歳という風にです。50代・60代の頃はさもありなんと思っていましたが、さすがに70歳を超えると、8掛け・9掛けが現実に即している気がします。 さて、ある方から「... [続きを読む]

【1316話】
「不二山」
2024(令和6)年7月11日~20日

住職が語る法話を聴くことができます お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1316話です。 東京都国立市では、駅前から伸びる通りを富士見通りと称しています。晴れた日には富士山を望めるからです。2年前にこの通りにマンション建設の話が持ち上がりました。地元では景観をめぐって反発したものの、建築基準法上の問題はないということで着工、先月完成しました。しかし引き渡しまじかにな... [続きを読む]

【1315話】
「一心松」
2024(令和6)年7月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます 元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1315話です。 東日本大震災で大津波を目撃した人は、「松林の上から黒い煙が出ているように見えた」と言っていました。最大波12.2㍍ともいわれる津波が、わが山元町の沿岸部の松林を根こそぎ破壊しました。松は養分や水分がなくても育ち、塩害や風にも強いことから、防風林・防砂林として用いられてきました。し... [続きを読む]