テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【第1221話】「昇龍」 2021(令和3)年11月21日~30日

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 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1221話です。

 イグ・ノーベル賞とは、世の中を笑わせたり、考えさせたりした研究に与えられるノーベル賞のパロディです。5年前の2016年度の受賞は、立命館大学の東山篤(あつき)教授の「股覗き効果」の研究でした。前かがみになって、股の間から後ろのものを見ると実際よりも小さく見えます。これは視野の逆転ではなく、頭を下にすることで起こることを実証したのです。

 普通に同じ長さの線を見た場合、横線より縦線の方が、1割ほど長く見えます。しかし横になって見ると、ほぼ同じ長さに見えます。このように身体の姿勢はものの見方にどんな影響を与えるかというのが、研究の始まりでした。そして股覗きと言えば天橋立です。展望台で股覗きをすれば、海に浮かぶ松並木が、天に架かる橋のように見えることで、日本三景にもなっています。イグ・ノーベル賞効果で、更に脚光を浴びることになりました。

 そして、奇しくもこの年の12月に、今や将棋界を席巻している藤井聡太棋士が、14歳5カ月という史上最年少でデビュー戦を飾ったのでした。相手は当時現役最年長の加藤一二三九段でした。それから5年足らずで、藤井九段は次々と記録を塗り替え、11月13日に竜王戦七番勝負を制し、四冠となりました。19歳3カ月は勿論最年少記録です。8タイトルの半数を占め、序列1位になりました。

 「藤井時代」の到来とか、桁違いの強さともいわれます。快進撃の背景には、AI(人口知能)による深層学習の研究に磨きがかかり、「完璧な読み」ができているという評価もあります。しかし相手もプロですから、同じように鍛錬を積んでいるはずです。その上を行く藤井九段の頭脳はどうなっているのでしょう。

 イグ・ノーベル賞で、身体の姿勢によって、物の見方が違って見えることが明らかになりました。それはある種の錯覚ともいえるでしょう。それでも股覗きのように、状態を逆転することにより、松林を天に架かる橋に見立てることができたのです。藤井九段は対戦中に逆立ちをすることはないでしょうが、頭の中で脳そのものが、360度自由自在に回転しているのではと思いたくなります。だから常人が思い浮かばないような手を指せるのかもしれません。

 藤井九段が四冠獲得後に、色紙に「昇龍」と認めました。龍が天に昇るように、自分も上を目指していきたいということでした。「龍は一寸にして昇天の気あり」という諺があります。優れた人物は子どものころから常人とは違っていることのたとえです。藤井九段そのものです。そういえば、天橋立のもうひとつの股覗きの見方として、海を空に見立てて、龍が天に昇る様を挙げています。なるほど藤井九段も天橋立も、ひとつのことに囚われず、柔軟な発想ができたからこそ、龍を出現させることができたのでしょう。

 それでは又、12月1日よりお耳にかかりましょう。

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