テレホン法話
~3分間心のティータイム~

【1303話】「往生際」 2024(令和6)年3月1日~10日

住職が語る法話を聴くことができます


 お元気ですか。3分間心のティータイム。徳本寺テレホン法話、その第1303話です。

 「畳の上で死ぬ」とは、事故などではなく、家で穏やかに死ぬことを言います。更に長生きであれば、「畳の上で大往生」となります。そして、いくら長生きをしても、事故や災害で亡くなった方に、大往生とは言い難いものです。

 東日本大震災の時、私は217人の檀家さんをお見送りしまた。5歳から96歳まで年齢は様々ですが、死亡年月日と死亡原因は、みなさん同じです。震災関連死の数人を除いて、等しく平成23年3月11日午後4時頃、溺死と、遺体検案書には記されていました。つまり大津波に飲み込まれての最期だったのです。ある女性は、沿岸部の自宅で被災し、遺体が発見されたのは、地元の山元町から100キロ以上も離れた、福島県いわき市の塩屋崎沖でした。引き波で海に運ばれ、そこまで流されたのです。震災1カ月後に発見されていたものの、身元不明扱いでした。DNA型鑑定の結果、本人確認ができたのは約半年後でした。13年経った今も行方不明者は9人います。みなさん「畳の上」とは程遠いところで、無念の死を迎えたのです。

 また、1月30日時点での能登半島地震の死者238人のうち、関連死などを除く、222人の遺体の死因が発表されました。「圧死」が92人、「窒息・呼吸不全」が49人、「低体温症・凍死」が32人、「外傷性ショック等」が28人、他に輪島市の大火による「焼死」が3人、「原因不明等」が18人です。死因も死亡日時も一定ではありません。特に「低体温症」とされた中には、建物倒壊後もしばらくは生きていたとみられる人もいました。救助が間に合えば助かったはずです。もしそこが「畳の上」だったとしたら、何という理不尽で非情なことでしょう。

 さて「往生」とは、往復切符の「往」つまり「往く」と「生まれる」と書き、この世を去って、他の世界に往って生まれる、つまり死ぬことをいいます。「極楽往生」なら、死ぬことの恐れはないでしょうか。しかし「立ち往生」となれば、手の施しようがなく、困った状態を意味します。往生は時にはあきらめることをも言います。突き詰めて言えば、私たちが生きていくという事は、ほんとうの往生の時が来るまで、往生際悪く、もがきながらも、あきらめず力を尽くす事なのでしょう。

 震災などで不慮の死を遂げた人の往生を思うとき、亡くなったとはいえ、その人が往った先は、私たちの心の中ではないでしょうか。そこに生まれているのです。つまり私たちは何年経とうがその人を忘れずに、又震災を風化させない往生際の悪さが、その人を生かし続けます。フランスの劇作家ガブリエル・マルセルは言いました。「人を愛するとは、その人に向かって『あなたは決して死なない』ということだ」。大切な人があなたの中で大往生できるまで、死なせてはなりません。

 ここでお知らせいたします。3月10日(日)午後2時徳本寺にて、大友憧山尺八コンサートと東日本大震災復興祈願並びに追悼法要を行います。どなたでも参加できます。

 それでは又、3月11日よりお耳にかかりましょう。

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